心療内科

思春期の心の病気・不登校

思春期の心の病気・不登校について

発達障害とは?

発達障害は、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。詳しい解説、成人の発達障害については、精神科のページをご参照ください。ここでは、まずは思春期に見られる頻度が多い主な発達障害(AD/HD、自閉症、学習障害)の大まかな説明と、様々なタイプの発達障害の特性について、例を挙げて解説していきます。

AD/HD(注意欠陥/多動性障害)

AD/HD(注意欠陥/多動性障害)とは、AttentionDeficit/Hyperactivity Disorderのことで、①不注意、②多動性、③衝動性の3症状を中心とする行動障害です。いずれの症状がまさっているかによって、不注意優位型、多動/衝動優位型、混合型の3つのタイプに分類されます。反抗挑戦性障害とは、拒絶的、挑戦的、敵対的な行動が「同じ年齢や発達段階のこどもよりもはるかに多く」、それが少なくとも6カ月以上認められるものです。

AD/HDの患者さんはどのくらいいるの?

AD/HDの有病率(発生率)は、学童期の子どもの3~7%といわれ、男女比は2:1~9:1と圧倒的に男児に多くみられます(女児は不注意優位型が多いために、発見されにくいという報告があります)。

年齢による症状の違い?

【乳児期】

ハイハイしながら動き回る、気難しくよく泣く

【幼児期】

落ち着かない、目が離せない(迷子、車の前に飛び出すなど)、人見知りせず誰にでも馴れ馴れしく声をかける、待てない、何度注意しても同じ失敗をする、集団行動がとれない思ったことをすぐに口にする、言葉より先に手が出てしまう、歩き方、走り方、階段の昇降がぎこちない、よく転ぶ

【学童期】

多動、注意の集中時間が短い(常に注意集中が困難なのではなく、ゲーム中などは、呼びかけても返事がないくらい集中力を発揮)、整理整頓が苦手、忘れ物が多い、感情が不安定、協調性がなく、集団の規律に従わない

【思春期】

多動傾向は改善、注意集中困難は持続、学業成績は不振、自己像が貧困(劣等感、疎外感、無気力感、抑うつ感)

基本的な治療スタンス

治療のターゲットはAD/HDの基本症状それ自身ではなく、そこから生じる有害な影響を最小限にし、自己評価を低下させず、子どもの本来の能力を発揮させることです。

周囲の人がAD/HD症状を認識する

まわりの人がAD/HDの正確な知識をもつことが大切です。

環境を調整する

【注意散漫】邪魔なものは机や教室から排除し、シンプルな環境づくりをする。単純、明快、簡潔な指示(長々と説教や無理にいい聞かせようとしない)、その子にあった学び方(興味や学業到達度)
【衝動性】あらかじめ行動のルールを決める。タイムアウト(興奮した場合は、その場から離す)
【多動性】授業にメリハリをつける。

必要に応じて薬物療法を行う

症状を緩和するために対症療法的に行われます。

自分の問題に気づかせる

AD/HD症状とそのコントロールの仕方を学ぶことも効果的です。

自己評価を回復させる

「幼児期は褒める、学童期は認める、思春期は勇気付ける対応」

当院では、3種類のADHD治療薬を、患者様の症状、環境、体質に応じて使い分けています。特にそのうちの1種類であるメチルフェニデート塩酸塩(商品名コンサータ)は、AD/HDの診断・治療に精通し、管理システムに登録された医師のいる医療機関しか投与できないとされています。当院では処方できますので気軽にご相談ください。

自閉症(アスペルガー症候群、広汎性発達障害)

自閉症(アスペルガー症候群、広汎性発達障害)とは、①社会性、②コミュニケーション、③想像力および興味・関心、などの発達に大きな偏りが出て、社会生活に支障をきたす障害です。

自閉症の人はどのくらいいるの?

人口1000人に対し1~2人です。このうち50~70%が知的障害のない自閉症(高機能自閉症)だといわれています。男性の方が、女性の3~4倍多く発症します。

薬物治療

こだわりや感覚の過敏性など自閉症特有の症状や、てんかんなどの合併症、社会生活のストレスの中で生じた不安、うつ、興奮、自傷、不眠などの症状を緩和するために対症療法的に行われます。

学習障害

学習障害とは、読む、書く、話す、聴く、あるいは推論することについて、同年齢、同じ知能の人と比較して、技能獲得の面での到達度が著しく低い状態のことです。学習障害は、読字障害、算数障害、書字表出障害、特定不能の学習障害に分類されます。

学習障害の患者さんはどれくらいいるの?

学童の少なくとも5%が学習障害にあたるとする報告があります。読字障害、書字表出障害は男児に多く、算数障害は女児に多いといわれています。

学習障害の症状は?

学習障害の症状は、①音読の時の読み違え、②算数学習時のさまざまな困難、③文字をつづったり自分の考えを表現したりすることの困難、といったかたちで現れます。

学習障害の治療は?

学習障害の治療は、①読字障害、②算数障害、③書字表出障害などそれぞれの障害に応じて異なります。

①読字障害

読む能力のさまざまな構成要素を直接的に指導することに焦点を当てます。効果的な治療計画の多くは、文字と音を正確に結びつけることを子どもに教えることから始めます。文字1音の結合が獲得できれば、音節と単語のような、読字のより大きな構成要素を目標とすることが可能となります。望ましい対処法には、個別的配慮のもとに、子どもが簡単に援助を求められるよう、小さい構造化された集団ごとに指導することも含まれます。

②算数障害

数学的概念の教育と練習問題を連続的に解かせることの組み合わせが、現在もっとも効果のある算数障害の治療法とされています。フラッシュカード、語彙集およびコンピューターゲームなどをこの治療に活用することができます。

③書字表出障害

書字表出障害の治療では、文法上の規則の復習と同様に、つづりや文章を書くことの練習をさせます。表出的な創造性を促す治療を1対1で集中的に持続して行うことが、もっともよい結果をもたらすと考えられている。

それぞれの障害の特性

様々な発達障害のタイプ

以下の例は発達障害の症状における特性の一例であり、他にも様々なタイプの特性があります。また、これらの特性だけをもって断定されるものではありません。

自閉症の人の例

急に予定が変更になったり、初めての場所に行くと不安になり動けなくなることがよくあります。そんな時、周りの人が促すと余計に不安が高まって、突然大声を出してしまうことがあります。周りの人には、「どうしてそんなに不安になるのか分からないので、何をしてあげたらよいかわからない」と言われてしまいます。でも、よく慣れた場所では、誰よりも一生懸命、活動に取り組むことができます。

アスペルガー症候群の人の例

他の人と話している時に自分のことばかり話してしまって、相手の人にはっきりと「もう終わりにしよう」と言われないと、止まらないことがよくあります。周りの人には、「相手の気持ちがわからない、自分勝手でわがままな子」と言われてしまいます。でも、自分の大好きなこと(電車とか)になると、博士と言われるぐらい専門家顔負けの知識を持っていて、みんなに感心されます。

学習障害(LD)の人の例

授業で大事なことを忘れまいとノートをとるけれど、本当は書くことが苦手なので、書くことに集中しようと気を取られて、かえって授業の内容が分からなくなることがあります。自分では頑張っているのに、後で授業の内容を周りの人に聞くので、「自分でちゃんとノートを取ればいいのに」と言われてしまいます。でも、苦手なことを少しでも楽にできるように、あらかじめ先生と相談し、ノートを書くことに集中できる時間を作ってもらったり、他の方法を取り入れる工夫をすることができます。

注意欠陥多動性障害(AD/HD)の人の例

学校で、大切な書類や持ち物などを置き忘れたりしてしまいます。周りの人にはあきれられ、「何回言っても忘れてしまう」と言われてしまいます。でも、気配り名人で、困っているお友達がいたら誰よりも早く気づいて手助けすることができます。

その他の発達障害

上の3つのタイプの他にも、トゥレット症候群のように、まばたき・顔しかめ・首振りのような運動性チック症状や、咳払い・鼻すすり・叫び声のような音声チックを主症状とするタイプのものも、発達障害者の定義には含まれています。

様々なタイプを踏まえて

これらのタイプのうちどれにあたるのか、実際には障害の種類を明確に分けて診断することは大変難しいとされています。障害ごとの特徴が、それぞれ少しずつ重なり合っている場合も多いからです。また、年齢や環境により目立つ症状が違ってくるので、診断された時期により、診断名が異なることもあります。大事なことは、その子がどんなことができて、何が苦手なのか、どんな魅力があるのかといった「その子」に目を向けることです。そして、その人その人に合った支援があれば、苦手なことは周りに助けてもらい、代わりに得意な事は自分に任せてもらうことを繰り返していくことで、自分に自信が持てるようになり、トラブルをうまく回避しながら成長をしていけるのです。

みなさんにわかってほしいこと

発達障害について、よくみられる誤解をまとめてみました。

診断名に対する誤解

「軽度発達障害は、軽い障害である」「知的障害を伴う自閉症は、発達障害には含まれない」「広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害だけが発達障害だ」以前は、知的な遅れを伴わない高機能自閉症、アスペルガー症候群、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(AD/HD)などを「知的障害が軽度である」という意味で「軽度発達障害」と称することがありました。しかし、知的な遅れがない人の中にも、その他の部分で重篤な困難さをもっているケースがあります。ですから、「障害そのものが軽度」と誤解される可能性を危惧して、最近では「軽度発達障害」という言葉は、あまり使われなくなってきています。(平成19年3月に文部科学省から「軽度発達障害」という表現を、原則として使用しない旨の通達が出されました)
発達障害は、知的な遅れを伴う場合から知的な遅れのない人まで広い範囲を含んでいます。知的障害を伴っていても、自閉症としての理解に基づいた支援が必要である場合も多いことに留意すべきです。また、発達障害者支援法は、「その他の障害」について詳しく障害名をあげていませんが、「トゥレット症候群」といった障害も対象に含まれています。

障害の予後についての誤解

「発達障害は能力が欠如しているから、ずっと発達しない」「発達障害は一つの個性なので、配慮しないままでもそのうち何とかなる」発達障害は「先天的なハンディキャップなので、ずっと発達しない」のではなく、発達のしかたに生まれつき凸凹がある障害です。人間は、時代背景、その国の文化、社会状況、家庭環境、教育など、多様な外的要因に影響を受けながら、一生かけて発達していく生物であり、発達障害の人も同様であると考えていいでしょう。つまり、成長とともに改善されていく課題もあり、必ずしも不変的なハンディキャップとは言い切れないのです。もちろん個人差はありますが、「障害だから治らない」という先入観は、成長の可能性を狭めてしまいます。周囲が彼らの凸凹のある発達のしかたを理解しサポートすることにより、「ハンディキャップになるのを防ぐ可能性がある」という視点をもつことは重要です。一方で、発達障害は一つの個性だから配慮は必要がないと考えるのも行き過ぎです。現在では、成人になった発達障害者が、小さい頃から配慮が受けられず困難な環境の中で苦労して成長してきたことを教えてくれる本なども出版されてきています。

支援方法についての誤解

「自主性尊重が大事で、大人があれこれ手を出すのは良くない」「有名な訓練方法を取り入れれば、それだけで治る」発達障害の人の中には、本人任せにされるよりも、実は「きちんと教えて貰うこと」「きちんと止めて貰うこと」が必要な場合が多くあります。もちろん、一律的なやり方ではダメで、その人に合ったやり方を工夫しなければなりません。その反対に、良かれと思って一方的に有名な訓練方法を取り入れても、本人が何に困っているのかきちんと把握しないままでは、本人にとっては迷惑な話かもしれません。支援者の中には「自分が培ってきたノウハウが、そのまま新しく支援対象として位置づけられた発達障害者の支援にも良いはずだ」という思いこみをもってしまうことがあります。しかし、ノウハウのどの部分が目の前にいる発達障害者に適切で、どの部分が不適当なのかあらためて点検する必要があります。

まちの中で見られる行動への誤解

「キーキー声を出すこどもやパニックは迷惑だから、外出させない方がよい」「発達障害の子がパニックを起こしたら、大勢で協力して止めにいくのがよい」発達障害の子も、家の中に閉じこもっているだけではなく、町の中で様々な行動のしかたやルールを学んでいきます。しかし、発達障害のこどもが騒いだり、パニックを起こしたりしているときに「何で親は厳しく叱からないんだ」と周囲をイライラさせてしまう場合があるかもしれません。しかし、発達障害の子の中には、少しの時間待ってあげる方が、無理に叱るよりもずっと早く混乱から抜け出すことができることもあります。道路で寝ころんでしまったときなどは、移動させるのを手伝って貰うと家族は助かりますが、沢山の人が一斉に近づくことは逆に興奮させてしまうこともあります。上手に発達障害の子の混乱に対応できなくても、「あれは発達障害の子のパニックだ。そのうち落ち着くだろう」と知識を持っていてくれるだけで、本人も家族もずいぶん楽になるのです。発達障害のそれぞれの項目で治療内容を細かく説明しましたが、共通して言えることは、本人、ご両親が、病気のことを今一歩ご理解いただき、その子にあった形の環境調整を常に相談できる体制を構築していくことです。それができていれば、薬物療法は必要ないことが当院では多いです。そして、ご両親のことをお子さんはよく観察しています。だから、まず、ご両親が不安を相談できる環境にあることが本当に大事です。そのうえで、一番大事な接し方のポイントは、自己評価を回復させることです。そのうえで、「幼児期は褒める、学童期は認める、思春期は勇気付ける対応を」が大事になってきます。