発達性協調運動症
(Developmental Coordination Disorder; DCD)
しょっちゅう転ぶ、うまく走れないなど、体の動かし方が極端に下手、はさみの使い方がいつまでもぎこちない、どんなに練習しても靴ひもが結べないなど、同年代の子どもと比べて不器用さが際立っている場合は、発達性協調運動障害(DCD)かもしれません。子どもの中で5~6%はいると考えられています。
発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder; DCD)について
発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder; DCD)は発達障害の一つで、明らかな麻痺や筋疾患が認められないにもかかわらず、協調運動の問題があり、日常生活に支障が出ている状態のことです。 DCD 児は、日常生活において様々な困難を抱えることが多くの研究で報告されています。有病率は、5-6% であるとされています。知的発達症がない子どもが多く、DCDそのものが周囲を困惑させる問題につながりにくいこともあり、その障害に気付かれず、保育園や学校で特別な支援を受けずに過ごしている子どもが多いと考えられます。
近年、発達障害に対する注目が高まってきており、早期発見体制整備、特別支援教育の推進の中で、自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder; ASD)、注意欠如・多動症(Attention Deficit Hyperactivity Disorder; ADHD)、限局性学習症(Specific Learning Disorder; SLD)等の発見、支援は広まっています。しかしながら、DCDはDSM-5でもICD-11でも神経発達症のカテゴリーに含まれているにもかかわらず、ASDやADHDのように注目されていませんでした。 DCD 児は自己概念が低く友人関係も苦手になりやすいこと(Cocks et al. 2009)、学齢期の運動機能の問題は学校でのQOLと関係していたこと(Raz-Silbiger et al., 2015)等がわかっています。DCD児には抑うつ傾向が見られやすいこと(Lingam et al., 2012)も報告されています。青年期においても社会参加、QOL、生活満足度が低値であったこと (Tal-Saban et al., 2014)、成人期のDCD者では、就労者の60%に不安や抑うつが、非就労者の83.3%に抑うつが見られること等がわかっています(Kirby et al., 2013)。このよ うなことから、DCDを看過することはできません。DCDを乳幼児健診、保育園等で発見し、支援に繋げることが必要です。 ところが、乳幼児健診等での DCD のスクリーニングや支援の実態、保育園等での実態把握や支援の状況は明らかになっていませんでした。また、これまでDCD児のアセスメントが不足していたことや、支援の仕方が浸透していなかった等の問題がありました。
厚生労働省令和4年度障害者総合福祉推進事業指定課題「協調運動の障害の早期の発見と適切な支援の普及のための調査」報告書から抜粋
「協調」とは、さまざまな動作を適切に行うために、体の各部の動きをまとめる能力
「協調」とは、視覚・知覚、触覚、固有覚(※)などさまざまな感覚の情報をまとめ、運動の目的などに基づいて体の各部分の動きの速さ、強さ、タイミング、正確さ、姿勢やバランスのコントロールなどを、適切にコーディネートする能力です。日常生活や集団生活で行う多くの動作に欠かせない、重要な脳機能の一つです。
固有覚は、主に以下の4つの感覚に分けられます
位置覚/体の各部分の位置を把握する
運動覚/動いているときの加速度や方向を把握する
抵抗覚/体に加わる抵抗を把握する
重量覚/物の重さを感知し、その物を持つときの力の入れ具合を調整する
「協調」の4つの能力
粗大運動/走る、投げる、ジャンプするなど、体を大きく動かす運動
微細運動・書字/道具を使いこなす、字を書くなどこまかい手先の作業
手と目の協応※/ボールをキャッチする、ラケットやバッドで打つなど
姿勢制御・姿勢保持/よい姿勢にしてそれを保つ
手と目の協応とは?
目から取り入れた情報に対して、手を使って適切に処理すること
日常生活で協調の能力が求められるシーン例
着替え/ボタン、ファスナー、ホック、スナップの開け閉め、靴ひも結び
食事/食べ物をかみ砕き飲み込む、スプーン・フォーク、箸を使う
遊び/塗り絵、折り紙、パズル、積み木、ビーズ遊び、ゲーム機の操作、三輪車・自転車に乗る、ダンス、縄跳び、平均台を渡る
道具を使う/はさみ、定規、コンパスなどの文具を使う、楽器を操作する
その他/物を落とさずに持つ、人や物にぶつからないで歩く、姿勢よく椅子に座る など
「協調」の発達に極端な問題がある場合、「発達性協調運動障害(DCD)」と判断され、子どもの約5~6%に見られます。これは注意欠陥多動性障害(ADHD)とほぼ同等で、自閉症スペクトラム障害(ASD)の約1%よりかなり多い割合。子どもによく見られる発達障害の一つなのです。また、発達性協調運動障害(DCD)は、注意欠陥多動性障害(ADHD)の約30~50%、自閉症スペクトラム障害(ASD)の約80%と共存することも特徴です。
発達性協調運動障害(DCD)の特性
発達性協調運動障害(DCD)の子どもは乳児期からその特徴が見られ、大人まで持ち越すことがあります。赤ちゃんのときから「なんだか育てにくい」と感じるかもしれません。一般的に発達性協調運動障害(DCD)の子は、どのような経過をたどるのか知っておきましょう。子どもへの適切な対応に役立ちます。
乳児期
乳児期は授乳時によくむせる、寝返りやはいはいがなかなかできないなどが見られます
DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では発達性協調運動障害(DCD)について、「症状の始まりは発達段階早期である」と説明しています。実際、発達性協調運動障害(DCD)の子どものママやパパは、乳児期(0才~1才)に「うちの子、発達が遅い?」「なんだか動作がぎこちない?」などと不安や育てにくさを感じることが多いです。
しかし、日本国内では発達性協調運動障害(DCD)の認知度がまだ低いため、乳幼児健診などでは何の指摘もされないことがあります。
発達性協調運動障害(DCD)の特徴チェックリスト<乳幼児>
□飲み物や食べ物を飲み込むのが苦手・むせることが多い
□筋緊張が低下している(体がだらんとしている)
□寝返りがなかなかできない
□座っている姿勢が不安定、または、座った姿勢に左右差がある
□はいはいがなかなか上手にならない、はいはいのしかたに左右差がある
□なかなか歩けるようにならない、歩行の動きに左右差がある
□重心が不安定
乳児期に上記のような特徴が見られた場合は、かかりつけの小児科などに相談しましょう。発達性協調運動障害(DCD)以外に、運動まひなどの可能性もあります。
幼児期
発達性協調運動障害(DCD)の特徴チェックリスト<幼時期>
2-5歳までに培われるはずの協調運動なので、個人差も大きく特に5歳時での診断が大事になります。5歳の時点での確認項目は以下になります。
①片足立ち
実施法:子どもの前で、検者が片足立ちをしてみせながら、「このように一つの足で上手に立ってみせてく ださい」と指示する。そして、練習後「今度は、どのくらい長く立っていられるか、先生が数えます。できる だけ長く、上手に立っていてください」と言い、数を数えながら時間を測定する。子どもの上げた足が立っ ている足につかないように注意する。子どもの手は自由にし、左右とも測定する。3 回まで繰り返し可能とする。左右の合計タイムをスコアとする。
②構音
実施法:構音検査用の絵を見せながら、検査用紙の単語を検者が読んで、それを反復させる。
③指のタッピング
実施法:親指と他の指の指先のタッピングをする。人差し指→中指→薬指→小指の順で、左右それぞれ の指で練習1回と本番1回を実施。指の遠い関節(第一関節、DIP関節)の先の指の腹同士がタッチすれば1 点となる。 まず、検査者が子どもの前でやって見せて、模倣させる。検査者は約3秒で人差し指から小指までタッピ ングすることをしっかり見せるようにする。そして、それを模倣させる(練習)。
④線引き(利き手のみ実施)
実施法:線引きシートを子どもの前に出し(子ども側の机の端から 1~2cmのところに紙の下端がくる ように)、子どもに「今からこの道からはみ出さないようにとがった鉛筆を使っておうちまで行きます」 と言って、一番上の課題を指差して示し、その道からはみ出さないように線を引いて見せる。そして、「次 に○○君/○○ちゃんも道からはみ出さないようにこの車まで行ってください」と言って、描いてもら う。4 つの線を引いてもらう。鉛筆は子どもの正中付近に差出し、(右手であっても左手であっても)子 どもが取った手で描いてもらう。
⑤点つなぎ(利き手のみ実施)
実施法:子どもから見て上段の20個の点が検査者用、下段の20個が子ども用である。まず、検査者が点か ら点に縦に線をまっすぐに引いて見せる。3本ほどデモンストレーションする。次に子どもに子どもから 見て左端の点を指差し「この点からこの点までまっすぐに線を引いてください」と言って、縦線を引いてもらう。
発達性協調運動障害(DCD)の子どもに必要な支援とは?
運動や手先を使った作業が苦手なことで日常生活や集団生活に支障が出るようになったら、その子が何にいちばん苦労していて、その点をどうフォローすればいいか、専門家とともに考える必要が出てきます。
ママやパパができることは?
日本ではまだ発達性協調運動障害(DCD)の認知度が低いため、発達性協調運動障害(DCD)の子どもの行動を「なまけている」「やる気がない」「努力や練習がたりない」「親のしつけのせい」などと誤解されることが少なくありません。その結果、からかいやいじめの対象になったり、効果のない練習を何度もさせられたりすることがあります。 まず頭においてほしいのは、子どもの極端な「不器用さ」はなまけや努力不足などではなく、脳機能の発達の問題であるということです。 協調の問題は、子どもの認知、学習、情緒、社会性の発達、自尊感情に大きな影響を与える可能性があるため、協調のどの要素を子どもが苦手にしているかを把握しましょう。そして医療や療育の専門家とよく話し合い、その子に必要な治療・支援を受けられる環境を整えることが重要です。
当院の治療方針
当院では、医師、看護師、公認心理師が連携し、それぞれお一人お一人の個性や考え方、趣味や嗜好も出来るだけ理解し、しっかりと検査の結果を踏まえた上で、児童という年齢から出来るだけお薬が多くならないこと、出来れば薬を飲まなくて良いということを理念に診察をすすめていきます。 様々な検査が全てお薬を減らし、最終的に通院しなくてよい環境作りのためとご理解頂き、ご協力頂けたら幸甚です。
参考文献
厚生労働省令和4年度障害者総合福祉推進事業指定課題 「協調運動の障害の早期の発見と適切な支援の普及のための調査」報告書から抜粋
Benesse たまひよ 赤ちゃん・子どもの発達性協調運動障害(DCD)とは?(2021/07/01 更新)