前頭側頭型認知症とは?
前頭側頭型認知症(FTD)はFrontotemporalDementiaのことで、自己中心的な言動など人格変化を中心とした症状がみられ、一般的な認知症とはやや異なった特徴をもつ認知症です。以前ピック病という名前で呼ばれていた病気もこの前頭側頭型認知症に含まれます。アルツハイマー病と同じ神経変性疾患ですが、脳の中でも前頭葉や側頭葉に限局した萎縮(やせ)がみられることから、この病名がつけられています。認知機能の障害よりも行動面の問題が目立つようになり、そのために家族による介護が困難となることもあります。
前頭側頭型認知症の患者さんはどれぐらいいるの?
認知症の1割ほどを占めます。アルツハイマー病よりも若い年齢で発症することが多いのです。
なぜ前頭側頭型認知症になるの?
前頭側頭型認知症の症状は?
主な症状は、①人格変化、②反社会的行為、③常同行動です。ほかに、脱抑制、攻撃性、感情の平板化、特殊な言語障害などがみられます。
①人格が変化する
自己中心的。相手の気持ちに無頓着になる。服装にだらしなさが目立ってくる。
②反社会的行動
ゴミを隣の家の庭に捨てる。他人のものを勝手に使う。
③常同行動
たとえば毎日決まったコースを散歩し、同じ店で同じメニューを注文する。
前頭側頭型認知症の治療は?
前頭側頭型認知症では、認知機能の障害よりも行動面の問題が家族の悩みの種となります。薬物治療としては、抗精神病薬、気分安定薬、セロトニン選択的再取り込み阻害剤(SSRI)を使用します。本人は自分の言動が周囲に与える影響に対して全く無頓着であり、悩む様子はありません。病識に欠け、以前と同じように職場に通おうとする場合さえあります。家族が病院へ連れて行こうとしても、本人が拒んでなかなか受診できない、ということもあります。日常の介護により問題行動をコントロールするのは困難であり、薬物に頼らざるを得ないことも多いです。
抗精神病薬
攻撃性や脱抑制による社会的逸脱行為を抑えるために、抗精神病薬が使われることがあります。
気分安定薬
躁うつ病などに使われる薬です。抗精神病薬と同様の目的で使われることがあります。〇セロトニン選択的再取り込み阻害剤(SSRI)
抗うつ薬の一種ですが、前頭側頭型認知症では脱抑制や常同行動などへの改善効果が期待されます。前頭側頭型認知症では前頭葉のセロトニン受容体が減少しており、SSRIはセロトニンの作用を補うことにより効果を発現すると考えられます。
福祉サービス
上記の薬物は、いずれも対症療法として効果が期待されるものの、明確に有効性が証明されたわけではありません。前頭側頭型認知症は、一見精神疾患と間違われるような特徴的な症状を呈しますが、このための家族の負担は甚大であり、家庭での介護が困難となることも多いようです。上記薬物が十分効かない場合には,家族のみでの対応には限界があります。福祉サービスを利用することを躊躇していてはいけません。
『老化によるもの忘れ』と『認知症によるもの忘れ』の違い
老化によるもの忘れ
- 体験の一部分を忘れる
- 新しい出来事を記憶できる
- ヒントを与えられると思い出せる
- 時間や場所など見当がつく
- 日常生活に支障はない
- もの忘れに対して自覚がある
認知症によるもの忘れ
- 体験全体を忘れる
- 新しい出来事を記憶できない
- ヒントを与えられても思い出せない
- 時間や場所などの見当がつかない
- 日常生活に支障がある
- もの忘れに対して自覚がない
原因疾患の比較
認知症のタイプ | 病変 | 特徴 |
---|---|---|
アルツハイマー病型認知症 | 脳全体が縮む | 全体的に低下 |
脳血管性認知症 | 血管が詰まったところから先の脳細胞にダメージ | 階段状に低下 症状がまばら |
前頭側頭型認知症 | 前頭、側頭葉が縮む | 無頓着 時として非社会性 |
レビー小体型認知症 | 後頭部にも縮みが及ぶ(ものを見る中枢) | パーキンソン症状 幻視 |
認知症を疑う日常生活の変化
- 人に会う約束を忘れる、待ち合わせの時刻や場所をよく間違えるようになった
- スケジュールを立てる、料理を手順どおりに作るなどの段取りや仕事が出来なくなった
- 買い物をしたとき、小銭を出さずにお札で払うことが多くなった
- 同じ献立ばかり続くようになった、味付けが明らかに変わった
- 老人会など近所の人たちとの交流が急に減った
- 大事なものをしまった場所や、しまい込んだこと自体を忘れることが多くなった
- 午前中に話したことを午後には覚えていないことがある
- 孫の名前を時々混同するようになった
- 鍋に火をかけたことを忘れてよく焦がすようになった
- 同じ服を何日も着ているようになった
- 食品など、同じものを何度も買ってくることが増えた
- 理由がはっきりしないのに痩せてきた
- 電話をしたことを忘れ、同じ内容の電話をかけてくるようになった
家族が認知症に気づいた変化の発生頻度
家族が異常に気付いてから受診までの期間は3分の2が2年以上
- 同じことを何度も言ったり聞いたりする(45.7%)
- ものの名前が出てこなくなる(34.3%)
- 置き忘れやしまい忘れが目立った(28.6%)
- 時間や場所の感覚が不確かになった(22.9%)
- 病院からもらった薬の管理ができない(14.3%)
- 以前はあった関心や興味が失われた(14.3%)
※その他、ガス栓の締め忘れ、計算の間違いが多い、怒りっぽくなったなど
認知症の人のために家族ができる10ヶ条
- 見逃すな「あれ、何かおかしい」は大事なサイン。
- 早めに受診を。治る認知症もある。
- 知は力。認知症の正しい知識を身につけよう。
- 介護保険など、サービスを積極的に利用しよう。
- サービスの質を見分ける目を持とう。
- 経験者は知恵の宝庫。いつでも気楽に相談を。
- 今できることを知り、それを大切に。
- 恥じず、隠さず、ネットワークを広げよう。
- 自分を大切に、介護以外の時間を持とう。
- 往年のその人らしい日々を。
(認知症の人と家族の会、2008より引用)会、2008より引用)