「全般性不安障害」とは?
全般性不安障害(GAD)はGeneralized Anxiety Disorderのことで、いろいろな出来事や日常活動について、過剰な不安と心配が長期間にわたって持続する病気です。結果として心身ともに不調となり、生活のさまざまな領域に支障が出てきます。多くの人にとって、ある程度の不安は正常な反応ですが、全般性不安障害の場合は、とても強い不安がほとんど毎日のように続き、著明な障害や苦痛が引き起こされます。不安の内容は奇妙なものではなく、日常の出来事だったり、将来に関係したものだったりします。これらの不安はひとりでに湧き起こり、止めたり、注意をそらしたりすることができません。そのために「いつも心配屋だった」とか「神経質だった」とふりかえる患者さんが多くいます。しかし、多くの患者さんが、自分の不安や心配を正常(普通)だと考えています。そのため、慢性の頭痛やめまい、胃腸症状などの付随する身体症状のために一般医や内科医を受診することが多く、適切な治療を受けていない人が少なくないといわれています。
全般性不安障害の患者さんはどのくらいいるの?
ある地域での調査によると、全般性不安障害の生涯有病率(一生のうち一度は病気にかかる人の割合)は 1.4%との報告があります。わが国では男性は 1.8%、女性は 1.0%で性差はなかったとの報告がありますが、海外では女性の方が多かったという報告が散見されます。また、年代別にみると 20~34 歳が 3.3%ともっとも多く、若年群において高い傾向があるようです。
全般性不安障害の症状は?
もっとも中核となる症状は、長期間続く①「過剰な不安と心配」です。そのために、②「筋肉の緊張」や③「自律神経系の過覚醒」が起こり、慢性的となると、④「心身の緊張」が優位になります。
不安でたまらない【過剰な不安と心配】
ほとんどいつも、毎日のように心配や不安を感じています。その内容は、とるに足らない問題もあれば重大な問題もあり、家庭や仕事、学校、健康のことなどさまざまです。これらは止めたり防いだりできず、ひとりでに発生します。また、将来は否定的に感じられていることが特徴です。
イライラ、疲れやすい【心身の緊張】
睡眠障害(寝つきにくい、ぐっすり眠れないなど)やいらいら感、集中力のなさ、疲れやすさなどが生じてきます。加えて、警戒心が強くなり、そわそわと落ち着きがなく、過敏に反応しやすくなります。
肩こり、筋肉痛【筋肉の緊張】
肩こりや震え、背中や腰の筋肉痛、筋緊張性頭痛などが生じてきます。
動悸、めまい【自律神経系の過覚醒】
頻脈や動悸、胸を締めつける感じ、過呼吸、めまい、口の渇き、発汗、悪心などの消化器系の症状など、さまざまな身体症状をもたらします。
全般性不安障害の治療は?
全般性不安障害の治療には、薬物を使う薬物療法と精神療法を組合せることが最も有効だと考えられています。しかしながら、治療にはかなりの時間を要することが普通です。あわてずにゆっくり治療に励むことが重要です。
薬物療法
ベンゾジアゼピン系薬物による治療
効果が確実で即効性があり、初期の不安状態や身体症状・ 自律神経症状に効果がありますが、長期的な有効性はあまり高くありません。また、他の薬剤に比べて中止後の再発率が高いとされ、依存や耐性の問題を生じやすく、ふらつきや眠気、物忘れなどの副作用が問題となることもあります。
抗うつ薬、SSRI による治療
効果が出るまでに少し時間がかかりますが、短期的にも長期的にも有効性が認められています。ベンゾジアゼピン系のような依存性もありません。主な副作用としては、吐き気や便秘などの消化器症状で、めまいや眠気などありますが、多くは服用を続けるうちに消え
てしまいます。
精神療法
全般性不安障害に対して、短期的にも長期的にも最も有用とされている精神療法は認知行動療法と呼ばれるものです。認知行動療法は認知療法と行動療法を同時に行います。認知療法は、ある出来事に対する認知(どう受け止めたのか、どのような見方をしたのか)を修正していくことで、歪んだ認知によって引き起こされる不快な感情や問題行動などの症状を軽くしていこうとするものです。行動療法は、人の「慣れ」を利用したものです。改善に向けて段階的な目標を作成し、それを実際に行うことでよりよい行動習慣を身に付け、徐々に状況の改善を図っていきます。
全般性不安障害の併存症と予後
治療期間は長期におよび、一生にわたることも少なくありません。ですので、ゆっくりあわてずに治療を続ける事が大切です。また、発病すると他の精神疾患を併発しやすくなるため、早めの治療が大切です。
全般性不安障害の再発率は?
治療中止後におよそ4分の1の患者さんが再発するとされ、60~80%の患者さんが1年以内に再発するとされています。ですが、短期間の薬物療法のみで寛解することもあります。
全般性不安障害と他の精神疾患との関連は?
全般性不安障害は他の精神疾患を併発することが多く、その割合は 50~90%にのぼるとされています。かなり高率の患者さんが気分障害を経験しているとされ、その他には、パニック障害や社会不安障害、恐怖症などとともにみられます。
まわりの人ができること
自ら不安や心配を周囲にもらすことが多いので、じっくりと訴えを聞き、支えになってあげる事が大切です。
話を聞いてあげる
ほとんどの全般性不安障害の患者さんは、心配事を支持的な人に話すとその不安や心配が大きく改善します。病気でない人からみると、とるに足らないと思える不安であっても、全般性不安障害の患者さんは心身ともに不調となっていることを理解して、温かい気持ちで支えてあげることによって、患者さんの症状を和らげることができます。
環境を変えてみる
不安を引き起こしていると思われる環境要因を見つけた場合は、それらを変えることで患者さんへのストレスを減少させることができます。ストレスが軽減すると、再び日常生活をうまく行うことができるようになります。その事が、患者さんにとって治療的に作用することもあります。
社会不安障害(SAD)ってどんな病気?
社会性不安障害とは?
社会不安障害(SAD)は Social Anxiety Disorder のことで、他人に悪い評価を受けることや、人目を浴びる行動に対する不安から、強い苦痛や身体症状が現れ、次第にそうした場面を避けるようになり、日常生活に支障をきたす障害です。人前で何かをしなければならなかったり初対面の人と接したりするようなとき、最初は不安を感じても時間とともに慣れて不安感や恐怖感は薄れていくものです。しかし社会不安障害の患者さんの場合はそうでなく、不安を感じ続けたり、過度な不安感や恐怖感をもってしまうことがみられます。やがて、自分が恐怖を感じる場所に行くことを避けるようになり、学校や職場での活動などの社会生活にも大きな影響を及ぼし、生活に大きな支障をきたすようになってしまいます。最近話題になっている、発達障害との鑑別が難しい場合もあり、また合併している場合もあるため、注意が必要です。
社会不安障害の患者さんはどのくらいいるの?
海外の大規模調査の報告では社会不安障害の罹患率は全人口の 10~15%と報告されており、現代社会では多くの患者さんを抱える一般的な病気です。日本国内では 300 万人以上の患者さんがいると推定されています。 10 代半ばから 20 代前半の比較的若い年代で発病することが多く、性別では男性より女性のほうが多いと言われています。
社会不安障害の症状は?
社会不安障害の患者さんは対人、社交の場面で「恥ずかしい思いをする」ことに対して、強い恐怖や不安を感じ、また身体的な症状が現われて、徐々にそのような緊張する場面を避けるようになります。
不安・緊張
社会不安障害の患者さんは、権威ある人との面談や、人前での行為や会話、知らない人との会話、試験を受ける、などの状況で行動する際に、不安な気持ちや強い恐怖感を覚えます。
赤面・ドキドキ
社会不安障害の患者さんでは、恐怖を感じる状況下で、不安によりさまざまな身体症状が現れます。具体的な症状として、赤面や声のふるえ、下痢、動機、発汗などがみられます。
- 顔が赤くなる、青くなる
- 顔が硬直する
- 汗をかく
- 頭が真っ白になる
- めまい
- 声がふるえる、声がでない
- 食事がのどをとおらない
- 口が渇く
- 息苦しい
- 吐き気
- 胃腸の不快感
- 手足がふるえる
- 動悸
- 尿が近い、出ない
社会不安障害の治療は?
社会不安障害の治療法には大きく2つ、薬を使用する薬物療法と、薬物を用いず心理的に治療する精神療法があります。これらの治療法は単独で行われたり、併用して行われたりします。
薬物療法
薬物療法の目的は不安感情を抑えることです。結果として緊張する場面を避ける等の問題を減らし、不安時の身体的症状をやわらげます。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、β 遮断薬などが用いられます。
精神療法
精神療法では「認知療法」と「行動療法」と呼ばれる治療法を併用して治療を行います。
認知療法:なぜ不安な気持ちが起こるのかを理解し、また周囲の目や自分の能力を改めて認識し、不適当な不安感を引き起こしてしまう認知パターンを自分で修正可能にしていくことを「認知療法」では目指します。
行動療法:「行動療法」では、あえて不安が生まれる場面に飛び込んで、刺激に身を慣らし、不安症状を改善していきます。いきなり強い刺激に身をさらすのではなく、段階的に目標を高くしていきます。
まわりの人ができること
社会不安障害の患者さんは、症状について自分から周囲の人へ相談しない場合もあります。社会不安障害の患者さんは周囲の人の目に著しい不安を抱いており、それが家族や親しい人間に対しても自分の症状がわかってしまうのが恥ずかしい、と考えてしまうからです。このように患者さんが無理をして内面を隠す続ける結果、本人は苦しいばかりで周囲はその苦しさに気づくことができず、症状が悪化したり、うつ状態になってしまったりすることもあります。まわりの人はどのように対応すればよいのでしょう?
患者さんに共感する
社会不安障害に悩む患者さんに対しては、共感の姿勢が大切です。周囲が社会不安障害と思われる様子に気づいたときに、患者さんが苦しんでいる症状をそのまま指摘すると、自分が否定的な評価をされたと感じてしまいます。患者さんのつらさに共感して、「このようなことで悩むのは自分だけだ」という孤独感にさいなまれることのないように接していくことが大切です。
無理をさせない
周囲が病気に対する無理解から、患者さんに「慣れれば大丈夫だから、頑張ってみなさい」という対応をしてしまうと症状はさらに悪化してしまいます。家庭や仕事先、学校が協力して、患者さんが無理をせず負担を感じない状況を作っていくことが大切です。そのためには患者さんのつらさや悩みをよく聞いて、どのような状況に対して、そのような苦しさを感じているかを理解していくことが必要となります。