「不眠症・睡眠障害」ってなに?
現在の日本では、多くの人が日中のほとんどを温度や照度が一定の建物内で過ごし、日が暮れてからも人工光の恩恵を受けた環境に身をおいています。また、人間に本来備わっている体内のリズムに逆らうかのように、深夜遅くまでTVやインターネットに熱中したり、ベッドに入るべき時刻にコンビニで買い物をしたり、眠気覚ましにカフェイン入りの飲料を頻繁に飲んだり、交代勤務や長時間の勤務を強いられたり、といった行動がライフスタイルに組み込まれています。こういった背景もあって、睡眠障害への社会的関心は高まり、睡眠医療に対する期待感は大きくなっています。睡眠障害は、不眠症状のあるもの、睡眠中に呼吸の障害がみられるもの、過眠症状のあるもの、睡眠覚醒リズムの障害があるもの、睡眠中に異常行動を起こすもの、睡眠に関連して運動の異常がみられるものなど に区分けされています。
睡眠障害の患者さんはどのくらいいるの?
主要先進国では成人人口の約20~30%が何らかの睡眠の問題を自覚しています。睡眠障害のなかでも不眠症に注目してみると、現在わが国では、国民の約20%に不眠の訴えがあるといわれています。また、日本の医療現場では、成人の4~6%が睡眠薬を常用しており、精神科以外の一般診療科における処方薬の約5%が睡眠薬であるとの報告があります。
なぜ睡眠障害になるの?
睡眠障害の1つである不眠症では、その原因は“5つのP”として分類されます。すなわち①心理学的(psychological)、②身体的(physical)、③精神医学的(psychiatric)、④薬理学的(pharmacological)、⑤生理学的(physiological)であり、さらに⑥リズム位相性(phasic)も加えられる場合があります。ここではわかりやすくするために、原因を下図のようにわけてみました。
その他の睡眠障害
睡眠時無呼吸症候群
睡眠中に全身の筋肉が緩むことにより、上気道が閉塞して呼吸する空気の流量が少なくなり、いわゆる無呼吸や低呼吸が繰り返し起こります。その結果、酸素不足の状態になったり、循環器系の負担を招いたり、睡眠が分断されたりします。わが国の睡眠時無呼吸症候群の患者数は約200万人にのぼると推定されています。当院に睡眠障害で来られる方の診察では、不眠症に続いて2番目に多いのですが、睡眠障害以外の問題で来られる方の診察で、隠れていた睡眠障害が見つかるパターンでは、睡眠時無呼吸症候群が第一位です。一番多いパターンとしては、①若年性(50~60代)の認知症疑い、もしくは②中高年(50~60代)の発達障害を疑う患者さんで、睡眠時無呼吸症候群が一番の問題であることが多く、当院では、①②の患者さんの実に4割近くが、睡眠時無呼吸症候群を合併しています。次に多いパターンは、認知症疑いの65歳以上の方で、2~3割ほどの患者さんが睡眠時無呼吸症候群を合併しています。三番目は、20~50代のうつ病患者さんに併発しているパターンです。このように、多くの疾患と合併しますので、当院では、可能性がある方には、早期に睡眠時無呼吸症候群の精査をお勧めしています。
ナルコレプシー
毎日起こる日中の耐えがたい眠気と、異常に発現するレム睡眠を特徴とする病態です。レム睡眠に関連する症状としては、次のようなものがあります。
・情動脱力発作(強い情緒の動きと関連して、突然力が抜けてしまう)
・入出眠時幻覚(睡眠と覚醒の移行期に体験する、鮮明な現実感のある幻覚)
・睡眠麻痺(いわゆる金縛り) など
わが国では一般人口の 0.16~0.18%に起こるといわれています。毎日の強い眠気のために日常生活、学校や職場での社会生活で支障をきたします。
レム睡眠行動異常
正常なレム睡眠中には、筋肉の緊張が低下する機構が働きます。しかし、何らかの原因によりその機構が障害を受け、はげしい夢の内容に支配された異常行動を起こしてしまうことがあります。それがレム睡眠行動障害と呼ばれ、女性より男性に多い疾患です。
レストレスレッグス(むずむず脚)症候群
安静にしている時に、脚を中心に不快な感覚(むずむず感、ちくちく感、もぞもぞ感、痛みなど)が生じてきて、睡眠が障害されてしまう病気です。脚を動かすと不快感はやや治まりますが、動かすのをやめると再びその感覚が出てきてしまいます。成人の5%から10%にみられ、女性は男性の1.5倍から2倍程度、起こりやすいといわれています。
概日リズム睡眠障害
その人にとって望ましい睡眠・覚醒スケジュールと、実際の睡眠・覚醒リズムが合っていないために、過剰な眠気や不眠が生じる病気です。交代勤務や時差による場合や、望ましいとされる時間よりも入眠時刻が遅れてしまう睡眠相後退型などがあります。
睡眠障害に対処するための12の指針
日常生活の中で、睡眠障害に陥っていると感じたり、よりよい睡眠をとりたいと考えたりしている場合、まずは、健康的な睡眠、睡眠のとり方、睡眠環境の整備の仕方などについて正しい知識をもつことが必要です。いったん睡眠障害が発生すると、その人の生活全般に大きく影響してくるため、誤った健康法や快眠法などの情報に惑わされて、かえって状態が悪化するのだけは避けたいものです。ここでは、睡眠時間、生体リズム、光、体温、嗜好品、薬物などの観点から、科学的根拠のある指針について示します。
①睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分
・睡眠の長い人、短い人、季節でも変化、8時間にこだわらない
・歳をとると必要な睡眠時間は短くなる
②刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法
・就寝前 4 時間のカフェイン摂取、就寝前 1 時間の喫煙は避ける
・軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニング
③眠たくなってから床に就く、就寝時刻にこだわりすぎない
・眠ろうとする意気込みが頭をさえさせ寝つきを悪くする
④同じ時刻に毎日起床・早寝早起きではなく、早起きが早寝に通じる
・睡眠の長い人、短い人、季節でも変化、8時間にこだわらない
・歳をとると必要な睡眠時間は短くなる
⑤光の利用でよい睡眠
・目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計をスイッチオン
・夜は明るすぎない照明を
⑥規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣
・朝食は心と体の目覚めに重要、夜食はごく軽く
・運動習慣は熟眠を促進
⑦昼寝をするなら、15時前の20~30分
・長い昼寝はかえってぼんやりのもと
・夕方以降の昼寝は夜の睡眠に悪影響
⑧眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに
・寝床で長く過ごしすぎると熟眠感が減る
⑨睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意
・背景に睡眠の病気、専門治療が必要
⑩十分眠っても日中の眠気が強い時は専門医に
・長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に支障がある場合は専門医に相談
・車の運転に注意
⑪睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
・睡眠薬代わりの寝酒は、深い睡眠を減らし、夜中に目覚める原因となる
⑫睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全
・一定時刻に服用し就床
・アルコールと併用しない
睡眠障害?それとも睡眠不足?
人間の身体は、睡眠覚醒のリズム、体温のリズム、さまざまなホルモン分泌のリズム、自律神経のリズムなど、いくつものリズムを互いに協調させながら、1日 24 時間を刻むようにできています。同時に、天候や季節、環境、個々の生活様式やストレスなどで生じるリズムの誤差を修正しています。しかし、誤差が繰り返され、修正が追いつかない場合、さまざまな身体症状や精神症状が出現します。慢性的に睡眠不足が続くと、同じような変化が体内に生じてきます。症状としては、全身倦怠感、頭痛、動悸、息苦しさ、胸部のつっかえ感、吐き気、起床困難、日中の眠気、集中困難、イライラ感などです。
睡眠の習慣を見直しましょう
あなたも、睡眠不足になっていませんか?不眠や日中の眠気を訴える患者さんの中で、明らかに睡眠不足が原因である方の割合が増えているようです。長時間労働や24時間型社会と関わる現代病のひとつといえるではないでしょうか。うつ病につながる危険性があるにもかかわらず、受診時に自分の睡眠不足をあまり問題視していないケースも多くみられます。まずは日常の睡眠習慣を見直すことが大切です。