「統合失調症」とは?
統合失調症は、精神障害のうちで最も代表的なものといえます。統合失調症は、主に思春期から青年期に発症する脳の病気で、人口の約1%が罹患する発症率の高い精神障害です。 統合失調症の症状としては、陽性症状や陰性症状などが認められますが、陽性症状とは幻聴や妄想を、陰性症状とは意欲の低下や感情が鈍くなることなどを意味しています。これらの症状は再発により慢性化すると、そのために社会生活が困難になることもあります。
どのように経過するの?
病気の経過としては、前兆期、急性期、回復期、安定期に大まかに区別されます。発症前の不気味な周囲の変容感をおぼえる前兆期のあと、幻覚・妄想状態や激しい興奮状態を呈する陽性症状が出現する急性期が訪れます。急性期を過ぎるとエネルギーが消耗した状態で陰性症状が中心となる回復期に入ります。そしてその後は症状がなだらかに回復していく安定期が比較的長期間にわたって続きます。
統合失調症の治療で大切なことは?
早期治療
どのような病気でもそうですが、できるだけ早く病気を発見して治療を受けたほうがよいことは当然です。統合失調症は、早期に発見して早期に治療を開始するほど、よい経過をたどって良好な社会復帰につながることが知られています。
アドヒアランス
主治医の服薬指示をきちんと守ることをコンプライアンスといいますが、最近では患者さん自らが治療の意義を理解して積極的に治療に参加して服薬するというアドヒアランスの考え方が重要視されています。慢性に経過する統合失調症の治療では、このアドヒアランスの姿勢がよりよい治療結果につながります。
社会復帰
統合失調症治療の目標は、単に症状を抑えればよいのではなく、障害を抱えながらも社会復帰を目指すことです。近年、登場した新しいタイプの薬によって早期の回復が可能となり、適切な薬物療法と心理社会的療法をうまく組み合わせることで、社会復帰を目指すことができるようになっています。
統合失調症の症状は?
統合失調症の症状は大きく分けて、①陽性症状(幻覚・妄想、自我障害)、②陰性症状(欠陥症状)、③認知障害の3種類になります。3種類のすべての症状をもつ人もいれば、いずれか1、2種類の症状だけの人もいます。
①陽性症状
陽性症状には、妄想、幻覚、自我障害などがあります。幻聴とは、自分の行動に関して意見を述べる声、互いに会話する声、あるいは批判的で口汚いことをいう声などが聞こえるという症状です。ほかにも、音、視覚、におい、味、感触についての幻覚が生じることがありますが、幻聴がもっとも多いです。妄想とは、誤った考えを信じ込んでしまうことです。妄想には、「見張られている」「いじめられている」「後をつけられている」などと思い込む被害妄想や、本、新聞、歌詞などの1節がとくに自分に向けられていると思い込む関係妄想などがあります。自我障害は、「人は自分の心が読める」「自分の考えが人に伝わっている」「外部の力によって考えや衝動が自分の中に吹き込まれている」などと思い込む症状です。これらの症状は、患者さんにとってはとても辛いものです。
②陰性症状
陰性症状には、社会性の喪失、感情鈍麻、会話の貧困などがあります。社会性の喪失とは、他者とのかかわりに興味を失うことです。部屋の中が荒れて、身なりがだらしなくなったりします。感情鈍麻とは、感情が鈍くなることです。通常なら、笑うまたは泣くような状況でも何の反応も現しません。表情に動きがなくなり、人と目を合わせることもなくなります。会話の貧困とは、言葉数が少なくなり、思考の低下や内面の空虚さを反映します。目標や意欲の喪失といった症状も、陰性症状と関連しています。統合失調症を治療して社会参加を果たそうと考えるとき、問題になる症状です。
③認知障害
認知障害には、集中力や記憶力の低下、計画能力や問題解決能力の欠如などがあります。集中力が低下すると、本が読めなかったり、指示通りにものごとができなかったりします。また、記憶力の低下や問題解決能力の欠如により、単純な作業でもやり終えることが難しくなります。
急性期の薬物療法は?
この時期の治療は、まず安静を保つことが最も重要なことです。そのために適切な薬物治療により症状を抑えて、安静を保ち、社会生活機能の改善を目指します。
抗精神病薬にはどんな種類があるの?
統合失調症の治療に用いる基本薬剤は抗精神病薬です。抗精神病薬には、従来型タイプの定型抗精神病薬と副作用が少ない新しいタイプの非定型抗精神病薬の2つのタイプがあります。また、抗精神病薬には、注射剤、水なしでも飲める液剤、携行に便利な錠剤・カプセル、量を細かく設定できる細粒剤などさまざまな剤型があり、患者さんの状態に合わせて用いられます。持効性抗精神病薬(デポ剤)は、定型抗精神病薬の効果が持続するように改良された注射剤で、およそ1回の注射で2~4週間以上効果が続くようになっています。
薬物療法はどのように行われるの?
薬剤の有効性と安全性を確保するために、身体合併症がないか、薬物アレルギーがないか、妊娠・授乳していないか、などを確認して、使用できない薬剤や、使用を避けることが望ましい薬剤を把握します。過去に服薬していた治療薬の有効性と副作用(薬物治療歴)を確認しますが、これは有効な薬剤の選択を速やかに行うことや副作用を避ける上で重要です。
精神症状の程度に応じた適切な薬剤を選択します。
患者さんの性格や状態、周囲の環境と精神症状を考慮して、薬物療法の対象となる症状(幻覚、妄想、興奮など)と心理社会的治療が有効な症状をおおまかに分けて、治療薬剤を選択します。興奮がそれほど強くない場合には、副作用の少ない新しいタイプの薬剤である非定型抗精神病薬を選択します。興奮が強い場合には、従来型の薬剤である定型抗精神病薬を選択します。できるだけ、1種類の薬剤(単剤)で治療することが原則で、4~6週間で十分な量を投与して効果を判定し、精神症状の程度に応じた適切な薬剤を選択します。