脳について常識と思われていたことが近年、くつがえり始めている。たとえば脳の重要な機能のひとつである記憶力は、これまで20歳ぐらいでピークに達して、その後は徐々に衰えていくと考えられていたのだが、それを否定するような研究結果が脳科学の専門誌だけではなくて、一般の雑誌でも紹介されるようになっている。
海馬というのは大脳辺縁系を構成する一部分で、記憶の集配箱のような役割を果たす。一時的に海馬に蓄えられた記憶は、想起というはたらきで復習を繰り返すことにより、脳のほかの部分に長期的にわたり蓄えられる。この海馬の神経細胞が記憶作業により頻繁に刺激を受けると、増殖することが判明したというのだ。つまり記憶を必要とする環境にいるかどうかが、記憶の良し悪しに決定的な影響を与え、脳までも自在に変化させるというのである。認知症が気になる中高年にとっては朗報だ。
自著「透明な脳」より