事物を記憶する前提となるのは、いうまでもなく人間の五感を通じて入ってくる情報である。五感は脳と外界を繋ぐ重要な懸け橋だ。物を見るという行為を脳科学の立場から解析してみると、われわれがなにげなく考えているように単純なものではなく、かなり複雑な過程があることが明らかになる。
見るということについて考えてみるならば、そこに物があり見えるのは、目が機能してそれを見るからだ、という思い込みがある。確かに目で対象物を捕らえていることは紛れもない事実で、その証拠に、目隠しをすれば視界が遮られてしまう。その意味では目で物事をみていることには違いないが、視覚をコントロールする大脳のなかの視覚野(後頭部に位置している)が破壊されると、視力の障害が起きる。場合によっては、まったく物が見えなくなってしまう。
目というのカメラでいえば、レンズの働きをする部分にほかならない。そのためか、両目を通して入ってきた外界の像を、脳がそのまま意識の上に映し出しているかのように思いがちだが、最近の研究で、色や形、それに動きを認識する脳の領域は、それぞれ異なっていることが分かった。
自著「透明な脳」より