かりに、猛スピードで走っている救急車を見るときの脳の働きを分析してみよう。まず、目を通して脳に入ってきた救急車の全体像は、脳の中の第Ⅰ視覚野と呼ばれるところへ送られる。ここで救急車の全体像が、色、形、動きなどに分類される。色や形の情報は、第Ⅰ視覚野から側頭葉の下の方向へ送られる。そこには、形や色を判別する第Ⅳ視覚野と呼ばれる脳の領域があり、物体が何であるかを見極めることができる。
一方、動きについての情報は、第Ⅰ視覚野から頭頂葉と側頭葉の境界へ流れ、そこにあるMT野と呼ばれる脳の領域で、救急車がどんな動きをしているのかを認識する。ちなみに情報を伝達するエネルギー源は、体内に流れる電気信号である。脳が刺激によって興奮すると、電気信号が伝わり、さまざまな神経伝達物質を分泌させ、ニューロンと呼ばれる脳細胞を相互に結合させ、情報の回路を作るのだ。
こうして、脳の分業によって別々に認識された情報が集合して、走っている救急車の全体像を認識させるのである。
自著「透明な脳」より