アルフレッド・アドラーの有名なエピソードがあります。
弟子のイギリス人 マーチン・ロスがアドラーに質問します。
マ「何歳になったら性格を変えるのに手遅れですか?」
ア「死ぬ1、2日前かな」
アドラー心理学ではいつでも「人間は自分を変えることができる」 と捉えています。そのため、自分を表す言葉に性格やパーソナリティといった言葉を使わずライフスタイルと日本語では訳されることが多いようです。
ライフスタイルは「自己と世界の現状および理想についての信念の体系」と説明されます。以下の要素から成り立っています。
① 自己概念
② 世界像
③ 自己理念
ライフスタイルを変えるには、自己概念、世界像について自己理想と照らし合せて適切な目標を設定して実行することが大事といわれています。 私が、前回にもお伝えした日本人がアドラー心理学に向いていると考えているのはまずこの根幹をなす発想です。仏教の教えに近いと考えています。
死の直前までライフスタイルを変えられる、 言い換えれば
「死の直前まで自己研鑽をすべきである」
というのは、キリスト教的な教えより、輪廻転生を提唱する仏教的な教えのように感じます。輪廻転生を繰りかえし、いつかは、解脱して理想的な環境で学問を学びたい、そのために自己研鑽を常にして徳を積み重ねたい。仏教の精神、教えの根源に近いと感じています。
そして、これは認知症治療のこれからのキーワードになると私が考えている「認知症は治療から予防に」「No(脳)エイジング」にも重なるところが大いにあります。
ライフスタイルについて説明を加えないと理解しにくいのは
②世界像
についてです。これは、世間、男性、女性、周りの人々など様々なことを「○○である」と認識すること。よく使われる日本語で言うと、常識や固定概念、イメージになるでしょうか。この世界像は非常に定義が難しいと私は考えています。
特に、元号が平成から新元号に変わる今年などは、「平成は○○の時代だった」などという総評が増えるでしょうが、どの側面からみるかによってがらりと変わるでしょう。現代社会は、アドラー心理学が生まれた100年前と比べ、飛行機などの交通手段、インターネットの発達などにより常識や固定概念、などがかなり相違している人たちとのコミュニケーションをとる機会が増えていると考えられます。これはアドラー心理学用語を用いると世界像の多様化になります。
この世界像の多様化に伴う共通認識の齟齬が、日々の日常で多く起こっており、今後もさらに増加すると私は思ってます。そこに意識を向けていないと相手を理解したり、相手との関係性を把握しにくかったり、環境が整わなかったりと、アドラー心理学の根幹である、対人関係の悩みが解決しないことになります。
抽象的な言葉が続いたので、例を出して説明しますと、外国人旅行者を 接客する際には、言語や文化が違う(世界像の齟齬がある)事を念頭に置いて自己概念を自分の意志で変えて(英語を覚えたり、アプリなどを利用する、文化を知ろうとする)自己理想を実現しようとする(どんな人とも協力し合える関係、外国人旅行者にも満足される接客)。これが、アドラー心理学に書かれている「ライフスタイルは自分の意志で変えられる」実例だと私は考えています。
つまり、2020年の東京オリンピックの一つのテーマである「おもてなし」といってもいいのではないでしょうか。日本人にはもともと根深い精神ではありますが、関係性が構築されていない外国人旅行者にはそういう気持ち、スタンスで向き合えるが、逆に関係性の深い恋人、家族、友人、上司、部下には自分のことをわかってほしい気持ちが強いがために(最近よくメディアで使われる「承認欲求」)対人関係で悩みが多く出ているのではないでしょうか。
ライフスタイルは、8-10歳までに形作られ、それに影響を与えるもの(影響因子)としては
① 身体的特徴
② 劣等感
③ 環境(家族関係、兄弟関係、文化)
がかかわるといわれています。
次回には、劣等感についてもう少しお伝えできたらと考えています。
参考:現代臨床精神医学 金原出版株式会社 大熊輝雄
参考:「Der Sinn des Lebens(生きる意味)」アルフレッド・アドラー
参考:嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え ダイヤモンド社 岸見 一郎
参考:勇気の心理学 Discover 永藤 かおる