関心がある事や実生活と結合している事は記憶しやすいという原理は、老人になると物覚えが悪くなる原因を説明するためにも有効だ。もちろん、老人の場合は、脳の病変による記憶障害のケースが多いわけだが、もうひとつの理由として、歳を取るにつれて新しいものに対する関心が湧かなくなることも原因としてあげられる。
いずれにしても記憶力を含む人間の知力というものは、それ自体が脳の中に独立して存在しているのではなくて、外界との接触のなかでさまざまな形に作られていくものなのだ。だから知力のかたちは個人の経験により微妙に違っている。思考の内容がまったく新しいもので、しかもそれが説得力をもっていれば、社会的に高い評価を受けることになる。これこそ創造の正体である。
試験によって測定できる断片的な知識は、外側から施した化粧のようなもので、時間がたてばすぐに剥げてしまう。本当の知力というものは、基本的には実生活と深く結び付きながら発達するものなのである。
自著「透明な脳」より