また、徘徊も大きな問題になります。家族・介護者が一番驚かれるのが、普段ほとんど歩かなかったり、数分歩くのを嫌がるような患者様であっても、自宅から5キロ、10キロほど離れた場所で見つかることもあるからです。また、徘徊で問題になるのが、患者様が事件、事故に巻き込まれる可能性が高いからです。一番衝撃が大きかった事件としては、平成19年12月7日愛知県大府市で徘徊症状のある男性が電車にはねられ死亡。男性は当時「要介護4」の認定を受けていた。事故後、JR東海と遺族は賠償について協議したが合意に至らず、平成22年JR側が「運行に支障が出た」として遺族に720万円の支払いを求めて控訴した。この裁判は、平成28年3月最高裁が、男性の妻に賠償を命じた2審名古屋高裁判決を破棄、JR東海側の逆転敗訴を言い渡し、判決が確定しました。
この際に争点になったのは、認知症高齢者を介護する家族の監督義務。一審では「目を離さず見守ることを怠った」と男性の妻の責任を認定。長男も「事実上の監督者で適切な措置を取らなかった」と責任を認定。
二審名古屋高裁では「20年以上男性と別居してり、監督者に該当しない」として長男への請求を棄却。妻の責任は1審に続き認定。ただ、同居妻も「要介護1」の認定を受けていたこともあり、最高裁ではJR東海側の訴えを退ける形となった。
ここで重要なのは、もし監督責任があると認められたら、家族を喪い悲しんでいる家庭に賠償責任が発生しうるという恐ろしい事実です。こういうだれもが不幸になる事故は絶対に防がないといけません。
こういった、陽性症状、徘徊への第一選択薬が漢方薬になります。第一選択薬になる理由は、副作用が圧倒的に少ないことです。陽性症状の治療の候補になる薬は、内科などで処方される薬に比べ、副作用が早く出現する、かつ頻度が多いことがあります。そのため、副作用が少ない漢方薬を進めるのですが、デメリットとしてすぐには効果を発揮せず、効き目もマイルドである事です。また、粉薬で苦く、一日三回と多いので薬をきちんと飲むことが難しい(服薬コンプライアンスが悪くなりやすい)という問題点もあります。そのため、これらのことを患者様、家族に確認し、処方いたします。
第二の候補としては、抗精神病薬をごく少量(最大用量の10分の1以下)処方する方法です。抗精神病薬とは、陽性症状、陰性症状、認知機能障害の3つの症状を特徴とする統合失調症という若年発症の精神疾患に対して作られた薬の事です。元々、幻覚、妄想という陽性症状に効果がある事をコンセプトに作られているお薬なので、一番効果を期待できる薬になります。ただ、よだれがでる(流涎)や眠気が出ることがある、長期投与することで飲み込む力(嚥下機能)が低下することがある、などの副作用が出やすいことから慎重に状態を見ながら調整することになります。また薬によっては血糖値を上昇しやすいなどの症状もあります。これら良い効果だけではなく副作用があるため、精神科専門医以外では処方の調整が困難であると言われています。当クリニックの医師は精神科の専門医であるため、安心してお気軽にご相談ください。