たとえば太平洋戦争の末期に、米軍が海上から近付いてきて上陸する光景を目にしたひとにとっては、きらきらと光る夏の海は決して旅情をさそいはしないだろう。海面の反射すら炸裂する黄燐のように見えるかもしれない。ところが戦後の豊かな社会で育った世代にとって、青い海は楽園として映る。マスコミを通じて、脳の中にインプットされた観光地と海岸のイメージが記憶として定着しているからだ。
もちろん沖縄戦の経験者であっても、戦後、沖縄の海と海岸は観光地としてのイメージを植え付けられているから、海を見てどう感じるかという問題に対して、明確な一線を引くことはできない。あるひとは太陽の反射を美しいと感じた瞬間、すぐその後に恐怖感に見舞われることもありうる。
自著「透明な脳」より