透明な脳 ~第三章 風景を解釈する脳 「記憶する能力」と人類の進歩③

今川クリニックの院長ブログ

かりに人間に記憶の能力が備わっていなければ、海を見ても何も感じない。いや、それ以前に、海がなんであるかすらも認識できないであろう。優れた芸術家は脳裏に記憶している豊かな経験を基礎にして、風景や人間と対話する。過去の経験をヒントにしながら、人間や社会についての新しい見方を芸術作品というかたちで提唱していくのだ。

記憶する能力が人間に備わっていなければ、経験を生かして対策を立てたり、新しい物の見方を創造することはできない。当然、人類の進化も、文化の形成もありえない。単なる犬や猫と同様に、毎日が同じことの繰り返しである。

いずれにしても視覚などを通じて外界から脳に入ってくる新しい情報は、記憶されたこれまでの体験を媒体として再解釈される。その結果、あるいは人間としての成長の跡が、あるいは堕落の跡が刻まれるのである。

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