おなじような感動を、武庫川の川岸を飛ぶ蛍をみたときにも覚えた。暗闇のなかで、たったひとつの光が揺れていたにすぎないが、わたしは生命とはいったいなにかを考えた。わたしにとっての自然科学の出発点であった。しかし、学校の勉強は相変わらずそっちのけで、アリを観察したり、水槽でお玉じゃくしを飼ったりして毎日を過ごしていた。こんな生活をしていたから、学年があがるにつれて、科学関連の知識なら自然に頭に入るようになった。医師になったのも、科学への興味が拡大した結果にほかならない。
幼少時に、心のそこからなにかが面白いと感じる体験は、非常に大切なことだといわなければならない。それは早期の英才教育よりも、知力の発達により大きな影響を及ぼすのだが、最近は子供達が遊ぶ環境すらなくなっているのが実情だ。
自著「透明な脳」より