小説、記録、その他のものを読むことは、実体験ではないが、体験したのと同じように脳に働きかけるのである。このことは映画についてもいえる。戦争を知らない若者が、ある戦争の映画を見たとする。そのことで若者は戦争を追体験する。それが、すでに脳にインプットされている学校で習った戦争に関する知識と結びついて、戦争に関する概念を新しく作りかえるのである。
ただ、映画と小説には次のような違いがある。映画は映像そのもの、ずばり脳にインプットするが、小説は直接映像として脳に働きかけることはない。小説は文字言葉を通して脳に作用する。つまり、読み手はいったん文字言葉で受けたものから、自ら映像を作り上げなくてはならない。これが想像力である。読み手それぞれが自分で作り上げた映像が、感情や思考をゆさぶるのである。
このように脳は実体験と追体験を織りまぜながら、ものごとの新しい概念を作る働きをする。その結果、人格の形成に影響を及ぼすのである。
自著「透明な脳」より