人格の形成に脳が大きく寄与し、しかも脳がよく機能するかどうかは実生活のなかで生じる目的意識や感動と深く結びついていることは、これまでの説明で理解していただけたと思う。もちろん栄養学の観点から厳密にいえば、脳に必要な栄養がいきわたらなければ、脳の活動が鈍り、記憶力にも影響してくるともいえるのだが、現在の社会状況では脳の栄養不足というよりも、偏食による栄養バランスの影響が懸念されている。特にミネラルとビタミンの不足が目立つ。
さて、今日の教育と脳の発達について考えてみたとき、少し気掛かりなことがある。それは、今日の教育では子供の記憶力を基準にして、能力を評価し、それを鍛えることが脳を発達させることだ、としていることだ。教育の実際は受験目的であり、そのために記憶力を重視する傾向がある。確かに記憶力は脳のひとつの重要な能力である。しかしそれだけが人間の能力ではない。記憶力とともに、観察力、思考力、創造力、想像力なども人間が事物を認識していくうえで欠かすことのできない能力である。これらの諸能力が総合的に機能して、事物の認識も可能になるし、脳も発達するのである。
自著「透明な脳」より