今回は、意外と多い高齢者の睡眠障害についてお話しします。
当クリニックでも、認知症疑いで、受診された方の、約半数が中等度以上の 睡眠時無呼吸症候群であり、睡眠の質が正常以上であった方は、約2割と、 イメージよりも高齢者の方に睡眠障害は多いのです。
高齢者に多い睡眠障害
高齢者では退職・死別・独居などの心理的なストレスに加えて、不活発でメリハリのない日常生活、こころやからだの病気、その治療薬の副作用などによって、不眠症をはじめとするさまざまな睡眠障害にかかりやすくなります(「不眠症」を参照)。狭心症や心筋梗塞による夜間の胸苦しさ、前立腺肥大による頻尿、皮膚掻痒症によるかゆみ、関節リウマチによる痛みなどによる不眠などキリがありません。またそれらの治療薬によっても不眠・日中の眠気・夜間の異常行動などの睡眠障害が生じます。
高齢者ではうつ病・認知症・アルコール依存症なども多く、これらの精神疾患によっても睡眠障害が生じます。早めの専門医への受診が必要です。さらに若い頃には影響がなかった生活習慣(運動不足・夜勤など)や嗜好品(カフェインの入った飲み物やアルコール類)でも睡眠障害が生じることがあります。不眠や眠気があったら、その原因を突き止めること、原因に応じた対処を行うことから治療は始まります。
高齢者がかかりやすい睡眠障害があります。中でも睡眠時無呼吸症候群・レストレスレッグス症候群・周期性四肢運動障害・レム睡眠行動障害などは専門施設での検査と診断が必要です。これらの特殊な睡眠障害にはそれぞれの治療法があり、通常の睡眠薬では治りません。これらの睡眠障害が疑われる場合には、日本睡眠学会の睡眠医療認定医へのご相談をお薦めします。 現在日本で使われている睡眠薬は安全性が高いので、過剰な心配はいりません。ただし高齢者では若年者に較べて睡眠薬に対する感受性が高く(少量で効きやすい)、体内から排泄する力も弱くなるので、注意深く使用する必要があります。最近では体のふらつきやめまいなどの副作用が少ない睡眠薬も開発されています。当クリニックでは、睡眠外来もしており、そこで副作用が少ない新しい睡眠導入剤を数多くの患者様にご処方しております。
特にスボレキサント(ベルソムラ)というまだ日本で認可が起きてから5年以内の画期的な新しいお薬をご処方しております。また、この薬に関してはここでも詳しくお話ししていきます。ご興味を持たれた方は、是非お気軽にお声掛けください。
今回も御一読頂き誠にありがとうございます。
参考
現代臨床精神医学 金原出版株式会社 大熊輝雄
e-ヘルスネット 厚生労働省
榎本みのり 認知症の睡眠障害. 老年医学 45:739-743, 2007.
三島和夫 高齢者・認知症患者の睡眠障害と治療上の留意点. 精神医学 49:501-510, 2007.
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター(精神保健研究所・精神生理部)