今だからこそ読んでほしい、認知症専門医がおススメする名著②  『アルツハイマー病 真実と終焉』

今川クリニックの院長ブログ

今回も、認知症専門医がおススメする、デール・ブレデセン氏の著書、『アルツハイマー病 真実と終焉』(ソシム、監修者:白澤卓二氏・訳者:山口茜氏)。その中から一部を抜粋してご紹介いたします。

何度か当ブログでもエッセンスをお伝えしていましたが、この機会に、一度拝読頂ければ幸甚です。少しでも見やすく、理解しやすいように時折箸休め的な挿絵を入れております。原著にはない挿絵なのでご注意ください。

1995年の発見以来、新薬は1剤も開発されていない

映画『アリスのままで』は2014年に公開されたが、その哀れな主人公の言語学教授は、アルツハイマー病を中年までに発症するという、1995年に発見されたDNA変異の持ち主であった。

おそらくみなさんは、がん生物学者が腫瘍に関わる遺伝子を発見し、それを基に新薬が作られて、治療が一気に進歩した話を読んだことがあると思う。

では、アルツハイマー病はどうかというと、1995年の発見以来、ただの1剤も新薬が開発されていないのだ。

この恐ろしい病気は、さらにもうひとつの理由で際立っている。

ここ50年で、分子生物学ならびに神経科学分野は、勝利に次ぐ勝利を重ねてきた。

生物学者はがんにつながる非常に複雑な経路を解き明かし、結果、がん発症の阻害方法が多数考案された。

また私たちは、脳の思考と感覚の根底にある科学的、電気的プロセスの緻密な地図を創り、完璧と言えないまでも、うつ病、統合失調症、不安症、双極性障害に効果のある薬を開発した。

確かにまだ解明すべきことはたくさんあり、米国薬局方[国や地域で流通している医薬品の品質規格25認知症を食い止める第1章の基準]に収載された薬にはまだ多くの改良が必要だ。

けれども、アルツハイマー病以外の他の病気においては、研究が事実上正しい軌道に乗り、病気の基礎を理解していると感じられた。つまり、「自然はこちらに変化球を投げ続けてくるものの、試合の基本ルールは明らかにしてくれている」という強い感覚がある。

効果的な治療法だと示された「アミロイド仮説」

だが、アルツハイマー病はそうはいかなかった。

この病気では、「自然に手渡されたルールブックはまるで、消えるインクで書かれ、さらにこちらが目を離すと、邪悪なグレムリンが編集しルールをほぼ書き直してしまうかのよう」だった。

具体例を挙げよう。齧歯動物の研究で得られた、一見すると盤石なエビデンスによると、アルツハイマー病は、シナプス[ニューロンとニューロンの接合部分]を破壊する粘着性のプラーク[身体の一部または臓器の組織に見られる異常な小斑点。アルツハイマー病では、アミロイド斑と呼ばれる]が脳に蓄積したために起きると考えられた。プラークは、「アミロイドβ(ベータ)」と呼ばれるタンパク質のかけらでできている。

そして研究によって、アミロイドβが一連のステップを踏んで形成されること、またこのステップを阻害するか、アミロイド斑(わかりやすくするため、以後、「アミロイドβ」を単に「アミロイド」と記す)を破壊することが、アルツハイマー病の効果的な治療法であり、予防法であると示された。

1980年代以来、神経生物学者の多くは、「アミロイド仮説」と呼ばれる、この基本概念を定説としていた。定説の提唱者は数百万ドルの賞金を獲得し、数えきれない賞賛を浴びて、大学では名誉ある地位に就いた。

またアルツハイマー病の論文が一流の医学雑誌に発表される際には、とてつもない影響力があった(ヒント:アミロイド路線を踏襲した論文が優先された)。米国国立衛生研究所という、米国の生物医学研究では最高の支援源からの助成金が行く先も、同じだった。

しかし事実はというと、製薬企業が行った候補薬物の試験では、たとえほんのわずかでもアミロイド仮説を基礎とした場合、結果は、苛立たしいものから途方に暮れるものまで、惨憺たるものだった。臨床試験では、ヒトの脳はこうした候補薬物に対し、ルールブックどおりの反応を示さなかったのだ。

候補薬物がデザインどおりに作用しなかった可能性は考えられるが、実際にはそうではなく、素晴らしい作用を発揮してアミロイド斑を除去した化合物(通常はアミロイドに結合して除去する抗体)が多かった。候補薬物は、みなアミロイド仮説のルールブックを遵守し、開発者の意図通りに作用した。アミロイドの産生に必要な酵素を阻害するようデザインされていれば、見事にその役目を果たした。

にもかかわらず、患者は改善しないか、信じがたいことに悪化するかのいずれかであった。

こうした臨床試験からは(ちなみに試験は5000万ドル規模のものがほとんどだった)、試験管内の研究、マウスの動物モデル研究、そして理論も含めすべてにおいて、アミロイド仮説に基づく予想とは「真逆の結果」が浮上し続けた。アミロイドの標的化は、アルツハイマー病を治癒するゴールデン・チケットのはずだと考えられていたが、事実はそうではなかったのだ。

まるで、自分たちの宇宙ロケットが毎回発射台で爆発したようだった。

何かが途方もなくおかしい。

盲目的にアミロイド仮説を信奉するのと同様の悲劇は、医学界の主流が、アルツハイマー病を単一疾患だと決めつけていることだ。そういった訳で、通常はドネペジル[日本名:アリセプト]とメマンチン[日本名:メマリー]の併用、またはいずれか1剤で治療されている。

アルツハイマー病の悪化を止める方法は見つからない…

前述したが、ここで再び、現在アルツハイマー病には治療法がないということについて説明したい。

まずアリセプトは、コリンエステラーゼ阻害薬(アルツハイマー病に処方されるその他のコリンエステラーゼ阻害薬は、リバスチグミン(イクセロン、リバスタッチ)、ガランタミン(レミニール)。このほか、ヒューペルジン(フペルジン)Aが栄養補助食品として販売されている)と呼ばれる薬で、特定の酵素(コリンエステラーゼ)がアセチルコリン(神経伝達物質と呼ばれる脳内化学物質の一種)を分解しないように作用する。

神経伝達物質は、ニューロンからニューロンへとシグナルを運んでおり、そのシグナルによってヒトは考え、思い出し、感じ、動く。だから神経伝達物質は記憶と脳機能全般に重要である。

原理は単純だ。アルツハイマー病では、神経伝達物質であるアセチルコリンが減少する。したがって、その分解酵素(コリンエステラーゼ)を阻害すれば、シナプスのアセチルコリン残量が増えるのだ。その結果、たとえアルツハイマー病が脳を破壊しても、シナプスは少々長く機能していられる可能性がある。

しかし、ある程度までならこの原理は機能するが、重大な注意点がある。

第1に、アセチルコリンの分解を阻害しても、アルツハイマー病の原因や進行そのものには影響がない。

第2に、コリンエステラーゼが阻害されると、ご推察のとおり、脳はさらにコリンエステラーゼを産生する。これで明らかにこの薬の効果が制限される(そして、突然薬を中止すると深刻な問題になる可能性がある)。

第3に、他の薬と同様、コリンエステラーゼ阻害薬にも副作用がある。下痢、嘔気嘔吐、頭痛、関節痛、眠気、食欲喪失、徐脈(心拍低下)などだ。

もう1剤のメマンチンという薬も、アルツハイマー病の基礎的な病態生理学にほぼ関係のない脳内化学物質や分子に作用するのだが、アリセプトのように、少なくともしばらくの間は症状を軽減する(あるいは遅らせる)可能性がある。通常は病気の後半になって使われ、コリンエステラーゼ阻害薬と併用されることもある。

メマンチンは、脳内シグナルがニューロンから次のニューロンへと、「グルタミン酸塩」という神経伝達物質を介して伝わることを阻害する。この伝達が妨げられると、グルタミン酸の興奮性神経毒性効果と呼ばれるもの(ニューロン活性化に関連した有毒作用)が減少する。しかし残念ながら、メマンチンは、記憶の形成に非常に重要な神経伝達も、阻害する可能性があり、使用当初は認知機能が減弱することがある。

最も重要なのは、コリンエステラーゼ阻害薬もメマンチンも、アルツハイマー病の根本原因を標的とするものではないということだ。

よって、病気の悪化を止めることもなければ、当然、治りもしない

今回抜粋した治療薬については、以前も当ブログでもとりあげ、

この本よりも最新情報をお話しております。

機会があれば見て頂ければ大変うれしい限りです。

今回も御一読いただき誠にありがとうございました。

文献1)デール・ブレデセン『アルツハイマー病 真実と終焉』(ソシム、監修者:白澤卓二氏・訳者:山口茜氏)
2)大熊 輝雄:現代臨床精神医学第12版 金原出版株式会社
3)幻冬舎 GOLD ONLINE 新刊書籍を試し読み

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