ここ数年で認知症と高血圧症、認知症と糖尿病、認知症と脂質異常症など、認知症と他の疾患の関連が次々報告されています。 なかでも注目が高まっているのが、認知症と睡眠の関連です。
認知症の睡眠問題
アルツハイマー病などの認知症の方では、同年代に較べてもさらに睡眠が浅く、さまざまな睡眠問題がみられるようになります。重度の認知症の方ではわずか1時間程度の短時間でさえ連続して眠ることができなくなるといわれています。認知症の方では夜間の不眠とともに昼寝(午睡)が増え、昼夜逆転の不規則な睡眠・覚醒リズムに陥るようになります。またしっかりと目が覚めきれず「せん妄」といわれるもうろう状態がしばしば出現します。このような時には不安感から興奮しやすく時に攻撃的になるため、介護の負担が増します。認知症の方の一部では、夕方から就床の時間帯に徘徊・焦燥・興奮・奇声などの異常行動が目立つ日没症候群という現象がみられます。これも睡眠・覚醒リズムの異常が関係していると考えられています。
残念ながら認知症の方の睡眠障害に有効な薬物療法は知られていません。効果が出ても一過性の場合が多く、長期間にわたり使用することは避けなければなりません。効果が出ないからといって睡眠薬や鎮静薬を使いすぎると、強い眠気や誤嚥、転倒・骨折などのために生活の質が低下し、結果的に介護負担が増加します。認知症の方の睡眠障害への対処法を下記にまとめました。即効性はありませんが根気強く続けることをお薦めします。これを参考にしながら「なるべく日中に刺激を与えて覚醒させる」「規則正しい日課で生活リズムを保つ」「夜間睡眠の妨げになる原因をなくす」ことを心がけてください。
認知症の方の睡眠を保つために
1. 就寝環境を整える(室温・照度)
2. 午前中に日光を浴びる
3. 入床・覚醒時刻を規則正しく整える
4. 食事時刻を規則正しく整える
5. 昼寝を避ける/日中にベッドを使用しない
6. 決まった時刻に身体運動する(入床前の4時間以降は避ける)
7. 夕刻以降に過剰の水分を摂取しない
8. アルコール・カフェイン・ニコチンの摂取を避ける
9. 痛みに充分対処する(気づかれていないことも多い)
10. 認知症治療薬(コリンエステラーゼ阻害剤)の午後以降の服薬を避ける
今回も御一読頂き誠にありがとうございます。
参考
現代臨床精神医学 金原出版株式会社 大熊輝雄
e-ヘルスネット 厚生労働省
榎本みのり 認知症の睡眠障害. 老年医学 45:739-743, 2007.
三島和夫 高齢者・認知症患者の睡眠障害と治療上の留意点. 精神医学 49:501-510, 2007.
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター(精神保健研究所・精神生理部)