今だからこそ読んでほしい、認知症専門医がおススメする名著①

今川クリニックの院長ブログ

新型コロナウィルスの感染拡大に御協力頂いている皆様。

誠にありがとうございます。皆様は、お家で過ごすことは、

何気ない日常ではなく、感染拡大防止への多大な貢献をしていると思って頂ければと思います。大変な努力を頂いている皆様に、医療従事者として厚く御礼申し上げたいと思います。

そんな、ご家庭にいる時間を皆様はいかがお過ごしでしょうか?この際に、精神疾患や、認知症に関わる名著を読んでいただければ幸甚です。まずお勧めできるのは、当ブログでも何度か取り上げましていまだに質問の多い、デール・ブレデセン氏の著書、『アルツハイマー病 真実と終焉』(ソシム、監修者:白澤卓二氏・訳者:山口茜氏)。その中から一部を抜粋してご紹介いたします。少しでも見やすく、理解しやすいように時折箸休め的な挿絵を入れております。原著にはない挿絵なのでご注意ください。

まずは、著者の紹介から。

MPI Cognition 最高医療責任者

アルツハイマー病などの神経変性疾患の世界的権威。カリフォルニア工科大学を卒業後、デューク大学メディカルセンターでMDを取得。カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)で神経学のチーフ・レジデントを務めた後、ノーベル賞受賞者のスタンリー・B・プルシナー博士に師事し、プリオンとアルツハイマー病の関連性について多くの研究を行う。UCSF、UCLA、カリフォルニア大学サンディエゴ校で教職を歴任。バーナム研究所にて高齢化プログラムを指導後、1998年、加齢専門研究所であるBuck Instituteの創業時社長兼最高経営責任者(CEO)に迎えられる。現在数百人の医師に「リコード法」の教育・普及を行うMPI Cognitionを創立、最高医療責任者を務める。

米国アルツハイマー協会の「厳しい見解」

「アルツハイマー病」というぞっとする響きからは、誰も逃れられない。

不治の病で治療はほぼ不可能、確実な予防法もない。

この数十年、世界一と言われた神経科学者たちが、この病に打ちのめされてきた。

政府機関や製薬企業、バイオテクノロジーの専門家たちにより、この治療薬の開発と試験には莫大な費用がつぎ込まれた。しかし、99.6%は見るも無残に失敗し、試験段階を終えることすらなかった。

市場に出た0.4%の薬に期待して、「結局、効果がある薬が1剤あればいいじゃないか」と思った人は、もう一度考えてほしい。

なぜなら米国アルツハイマー病協会の見解は、『本当に新薬と言えるアルツハイマー病治療薬は2003年以来、承認されておらず、現在承認されているアルツハイマー病治療薬には、病気の進行を止めたり、遅らせる効果はない』であり、今日使用できるアルツハイマー病治療薬4剤については『物忘れや混乱症状は軽減されるかもしれないが、その効果は期間限定的』だという厳しいものだからだ。

米国食品医薬品局[FDA:保健福祉省に属する米国の政府機関。食品添加物の検査や取り締まり、医薬品の認可などを行う]が、アルツハイマー病の新薬を最後に承認した際の記事を覚えているだろうか。そこには、「2000年から2010年にアルツハイマー病治療薬として、244剤の試験が行われ、唯一、メマンチンだけが2003年に承認された」とある。後述するが、その効果はせいぜい穏やかなものでしかない。

実に恐ろしい病だ。アルツハイマー病とだけは診断されたくないとみな思って当然だろう。

アルツハイマー病の妻と、長く意思疎通できないでいる男性は、首を横に振り、落胆して言った。「治療薬を開発中で、病気の悪化を遅らせることができるだろうと繰り返し聞きますが、そんなことどうしてやる人がいるんですかね。毎日アルツハイマー病を抱えて生きるなんて、はっきり言って、最悪ですよ」

この20年、他の医学療域は驚異的な進歩が見られたが…

アルツハイマー病は世相の一部となった。ニュース記事、ブログ、ポッドキャスト、ラジオやテレビ、ドキュメント映画にフィクション映画。不幸なことに、次々と見聞きするアルツハイマー病の話は、みな悲劇に終わる。

アルツハイマー病の恐怖は、他の病気への恐怖とはまったく違う。これには少なくとも2つの理由がある。

第一に、米国人の一般的な死因の上位10位中、アルツハイマー病には唯一、繰り返すがただひとつだけ、効果的な治療法が存在しない。しかもこの「効果的な」という表現はハードルをかなり下げたものだ。薬や治療介入でアルツハイマー病患者が少しでも改善したら、治癒するかどうかなどおかまいなしで、私は誰かれかまわず、触れ回るだろう。愛する人がアルツハイマー病の人、アルツハイマー病リスクがある人、そしてもちろん、すでにアルツハイマー病にかかっている人はみなそうだ。

しかしそんな薬は存在しない。主観的認知機能障害[SCI:認知機能の低下を本人が自覚しているが、客観的には認知機能の低下が認められない状態]や軽度認知機能障害[MCI:23認知症を食い止める本人および第三者から認知機能の低下に関する訴えがあるが認知症の診断基準を満たさず、基本的な日常生活は保たれている状態。複雑な日常生活機能の障害は軽度にとどまる]の患者が、本格的なアルツハイマー病を発症しないようにする治療すらないのだ。

この20年、がんやHIV/エイズ、嚢胞性線維症、心血管疾患を考えると、他の医学領域では、信じられないほど驚異的な進歩が見られた。しかしアルツハイマー病は、2017年現在の執筆時点でも治癒できないばかりか、確実に予防し進行を遅らせる方法すらない。

ご承知のとおり、天使のような子どもたちや、聖人のような父母たちが勇敢にがんと闘う午後のテレビ特集や伝記映画は、「最新の特効薬のおかげで、どうせエンドロール前に完璧に健康を回復するのだろう」と、批評家たちに物笑いの種にされる(確かに感傷的だ)。

だが、アルツハイマー病に関わる人間なら、この病気が完治するというハッピーエンドが描かれれば、たとえあまり現実味がなくても、喜んで感傷に浸るだろう。

アルツハイマー病がこれほど恐れられる第二の理由は、単なる「命取り」では終わらないためだ。致命的な病気はたくさんある(古くさい冗談では、人生こそ命取りだが)。アルツハイマー病は命取りよりたちが悪い。死神が扉を開けるまで、何年も(ときには何十年にもわたって)犠牲者の人間らしさを奪い、家族を脅かす。記憶、考える力、自立した生活を満足に送る能力―すべてが失われた患者は、精神の奈落へと、容赦なくつき落とされていく。

もはや愛する人のことも、自分の過去も、この世界のことも、自身もわからなくなるのだ。

次回も引き続き、『アルツハイマー病 真実と終焉』から

抜粋してお話ししたいと思います。

今回も御一読いただき誠にありがとうございました。

文献1)デール・ブレデセン『アルツハイマー病 真実と終焉』(ソシム、監修者:白澤卓二氏・訳者:山口茜氏)
2)大熊 輝雄:現代臨床精神医学第12版 金原出版株式会社
3)幻冬舎 GOLD ONLINE 新刊書籍を試し読み

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