早期アルツハイマー病の治療や予防といえば、「世界一受けたい授業」という番組でも取り上げられ話題になったリコード法が最近話題になりました。このリコード法については、東洋経済オンライン2018年2月17日の記事で既に取り上げられていました。ご紹介させていただきます。
『40代から始める認知症を防ぐための生活習慣 まずは食事・運動・睡眠を見直そう』
最新の研究によると、認知症を起こす原因の6割以上を占めるアルツハイマー病は、食事や運動、睡眠といった生活習慣を40代から見直し、必要なサプリを補うことなどで、予防できる人が多いという。さらに、認知機能を維持するために食べるべき食品、避けるべき食品も明らかになった。(中略)
これまで多くのアルツハイマー病患者を救ってきたデール・ブレデセン医師は著書『アルツハイマー病 真実と終焉』で、その詳細な治療と予防の方法を紹介している。(中略)
アルツハイマー病は、混合型も含め4つのタイプに大別できる。(これは、デール・ブレデセン医師の学説で、諸説あります)
炎症性アルツハイマー病
脳の炎症が原因で起き、食事も深く関与している
萎縮性アルツハイマー病
脳機能の維持に必要な栄養素やホルモンの欠乏で起こる
糖毒性アルツハイマー病(炎症性と萎縮性の混合型)
いわゆる糖尿病から起きる
毒物性アルツハイマー病
カビ毒や歯の治療に使われる材料に含まれる水銀などの毒素から起き、治療が最も難しいとされる
毒物性の場合は、生活の中の毒素をまず特定して除去する必要がある。毒素を除去しないままアミロイドベータを取り除く従来治療を行うと、実はアミロイドベータにより守られていた脳細胞が直接毒素にさらされ、逆に危険な場合があるという。
治療には「オーダーメイド医療」が必要
さらに、アルツハイマー病には36の要因があることも研究で明らかになった。
アルツハイマー病患者は、脳神経の増減に伴う代謝バランスが常に減少方向に傾いているという。このバランスを調節する要因が少なくとも36項目は特定されているのだ。
アルツハイマー病の症状が出ている場合、36の要因のうち、10~25項目は脳神経を縮小・減少する方向に傾いている場合が多いという。
このため、「アルツハイマー病患者の脳は、『36個の穴が空いた屋根』のようだ」とブレデセン医師は語る。
屋根に空いた穴が多いほど、雨はどんどん漏れてくる。アルツハイマー病の治療は、この穴をひとつひとつ塞いでいくことで初めて可能になる。
1種類の薬剤が塞げる穴は通常1~2個。アルツハイマー病はひと粒の薬で治るような代物ではなく、包括的な治療を集中的に行わなくてはならない。
人によって空いている穴の数も大きさも違うため、アルツハイマー病の治療には、一人一人に合わせた細やかなメニューが必要だ。
食べるべき食品、避けるべき食品
リコード法の治療プログラムは、食事、運動、睡眠といった生活習慣の指導や、脳の栄養不足を補うサプリメント、脳トレーニング、ストレス対策など、実に多岐にわたる。
食事については、「ケトフレックス12/3」と名付けられた食事法の実践が前提になっている。体のエネルギーとして脂肪を燃焼する状態を目指すもので、この状態は認知機能にとって最適だという。
この状態を促すには、次の3つを組み合わせる必要がある。
(1)糖類、パン、ジャガイモ、白米、ソフトドリンクなどの単純炭水化物食品を最小限にする(低炭水化物食…要するに糖質制限)
(2)適度な運動(早歩きやもっと激しい運動を週150分以上)
(3)毎日少なくとも12時間は絶食する(夕飯から朝食まで12時間は空ける)
認知機能にとって最適な状態を促すには、『シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』で一躍有名になったMCTオイルをとるといい。ココナッツオイルなどの中鎖脂肪酸、オリーブオイル、アボガド、ナッツなどといった不飽和脂肪酸の摂取も有効だ。
基本的に野菜を中心とし、ジャガイモなどのでんぷん質の野菜は控えめにする。ただし、サツマイモやグリーンバナナなどの難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)は例外で、毎日食べても構わないという。
このほか、頻繁に食べたい“青色信号食品”として、デトックス効果のあるブロッコリーやカリフラワーなどアブラナ科の野菜、ケールやホウレンソウなどの葉物野菜、タマネギやニンニクなどの硫黄化合物を含有している野菜、キノコ類、クズイモ、ネギ、キクイモなどのプレバイオティクス食品なども挙げられている。
また、天然ものの魚もいい。特にサケ、サバ、アンチョビ(カタクチイワシ)、イワシ、ニシンは水銀汚染が少なく積極的にとるべきだ。平飼い卵、キムチやザワークラウトなどのプレバイオティクス食品も“青色信号食品”に入る。
一方、なるべく食べる機会を最小限に抑えたい“赤色信号食品”としては、パン、パスタ、コメ、ケーキ、ソーダなどの単純炭水化物がメインの食品が挙げられる。
さらに穀類、加工食品、マグロ、サメ、カジキマグロなど水銀汚染リスクが高い魚類のほか、パイナップルなどの甘い果物、グルテンや乳製品など過敏性が出やすい食品なども“赤色信号食品”に入る。
チーズやオーガニックの全乳、プレーンヨーグルトはたまにならよい。
劇的に改善する場合も
しかし、生活習慣、特に食べ物を変えることは案外難しいものだ。『アルツハイマー病 真実と終焉』では、ブレデセン医師が多くのアルツハイマー病患者を診療して得た「マル秘テクニック」が紹介されている。
例えば、炭水化物を食べる時は、先にケールなど食物繊維を豊富に含む食べ物をとるようにすると炭水化物の吸収が抑えられ、腸内フローラにも良い影響がある。また、どうしてもアイスクリームが食べたいときは、ココナッツミルクのアイスクリームにするといった奥の手もある。
患者の中には、完璧にプログラムをこなしているわけではなくても、認知機能を良好に保っている人もいる。人により重要な項目がいくつか存在し、すべてとはいかなくてもいくつかのプログラムメニューを守るだけで、認知機能が劇的に改善する場合もあるという。
意外かもしれないが、欧米で高所得者が多い国では、すでに認知症の年齢別発症率が減少傾向にある。
アメリカ東海岸にあるフラミンガム町の住民を長年にわたり追跡調査している「フラミンガム研究」では、60歳以上の住民で認知症の5年発症率がこの30年で44%も低下したことが明らかにされている。
しかし、認知症リスクが統計学的に有意に減少していたのは、高卒以上の学歴のある集団のみだった。(中略) 21世紀の認知症医療では、より早期に診断し、症状が出てからというよりも、むしろ予防していくことが主軸になっていくだろう――。ブレデセン医師はこうみている。(以下略)』
こうしてみていると、今川クリニックでの非薬物療法と生活指導の類似点が多くみられる。もちろん、米国とは文化、食生活、環境、習慣など相違点が多いため、違いも多いが、まず軽度認知障害の方をアルツハイマー病に移行させないことを主眼に置くこと自体が、アルツハイマー病治療において現時点でも主流でない中、20年以上前から取り組んでいたところが大きく一致しているところである。そのため、多岐・多種類にわたる認知機能検査・心理検査・血液検査において精神状態、認知機能、健康状態を常に確認し、オーダーメイドな治療を心掛けているところも一致している。食事内容にも気を遣い、不足しがちなビタミンや鉄の補充を進めることや料理形態では唯一、地中海料理が認知症予防のエビデンスがあることから魚料理やオリーブオイルもすすめている点も同じである。
逆に違いとしては、日本の医療・介護制度の特性を生かし、運動療法に関してはデイサービスを利用することをお勧めしている点である。この点に関しては、明らかに米国より日本の制度がすぐ入れている点であると愚考している。ただ問題点としては、デイサービス・ショートステイの実情をあまり意識しないままイメージであまりポジティブな印象を持っていないところであろうか。所謂日本国から考えると「宝の持ち腐れ」状態になっている部分があると思われる。その問題点については次回以降にまた、お話したいと思います。
相違点の二点目は、脳の活性化につながるトレーニング、『脳トレ』が良い結果のエビデンスがあまりないのが現状なのでリコード法では大きく取り上げていないですが、当クリニックでは、『芸術療法』に取り組んでいます。次回はこの芸術療法について、お話ししたいと思います。
文献1)東洋経済オンライン2018年2月17日の記事
文献2)大熊 輝雄:現代臨床精神医学第12版 金原出版株式会社
文献3)一宮 洋介:認知症の臨床 最新医療戦略と症例 MEDSi