物忘れが始まる以前に、本人や周りの人が度忘れ(鍵を掛けるのを忘れる・ボーっとした表情になる等)に気付くことは困難なことであり、本人が勇気を出して医療機関を訪ねることは少ないであろう。多くは、物忘れの前駆症状(置き忘れ・仕舞い忘れ等)に気付いていても疑心暗鬼にはまり、不安感のみが先行してしまうのが一般的である。
医療機関において物忘れテスト(MMSE)で30点満点を取れば正常と診断されることが通常であるが、兎にも角にも一人で物忘れ外来を受診する人は甚だ少ないのが現状である。
「度忘れの頻度が多い」とか「複雑な話になるとその話を避けようとする」など、この段階(軽度認知障害)では、周りの人が仮に怪しいと思っていても本人には何も言わないケースが多く、ましてや本人が高齢者の場合、年齢相応だと思い、細やかに本人の行動の変化を異常だと周りの人達は感じないであろう。
すなわち、物忘れの疾患であることが間違いないと思った段階では、後手にまわっていることが一般的であり、早期発見の拠り所は次に挙げるサインを見逃さないことである。
本人の両親または祖父母が認知症で亡くなられている場合がそうであり、更に、患者の家族で患者と相性が良い場合は、将来的にこの疾患になる可能性がある為、これらは重要なサインの一つと考えられる。
物忘れや忘れっぽさは人の五感ではない故(勘のシャープな人は例外として)、気付くのが遅れるのはやむを得ないことであろう。痛いとか痒いとかの症状があれば病院に行くのであろうが、痛くも痒くもなければ病院を訪れることはまずないだろう。
このようなことから、物忘れの疾患は、周りの人の助言がなければ早期発見が難しく、病状の進行が日常生活に支障をきたす段階に入って、本人も周りの人もようやく気付くことになるのである。
2012/04/17
今川 正樹