外来のクリニックに患者と家族が来られる場合、家族は患者を診てもらい、且つ患者の診断を知りたい気持ちで来られる。さらに診断された病気が今後良くなるのかどうかを聞いてくる。患者、家族が良くなることを希望するのは当然のことであろう。
私の外来患者の大半は認知症であり、その中でもアルツハイマー病(AD)の患者が多く、患者も家族も進行を抑えて欲しい気持ちで一杯である。特に患者は大きな不安を背負っている。薬だけ出して、悪くなれば歳が歳だけに仕方が無いと言う医師もいるであろう。考えてみれば、改善する疾患とそうでない疾患があるのは仕方のないことである。しかしながら、認知症を専門とする私の臨床経験からすれば、患者も家族も一秒たりとも生きて欲しいという気持ちで一杯である。その根源には命の厳粛さがあるのだろう。
産声をあげた時から自明のことであるが、成長し大人になり、社会の組織で生産的に働き、結婚と同時に次世代に繋ぐ子供を産み育て、この役目を終えると老化の途を歩むことであろう。これが自然界の大原則であって、日本語の言う寿命であろうと私は考えている。
ADの患者とその家族、さらに専門の医師、看護師、介護やサポートを担う者が連携し、この病に立ち向かうことが重要だろう。