脳の透明性について、今川先生の著作「透明な脳」から引用させて頂きますと、母胎の中で脳が形成されて、環境ホルモンなどの影響もなく、健全に成長する可能性を秘めた脳を、今川先生は「透明な脳」と呼び、その「透明な脳」の状態を取り戻すために編み出された治療法が鉄剤療法であるとのことです。この著作の中で特に印象的な文章が、
「(前略)脳というものは、これまでに述べたように科学的な発達の法則に従って成長していく。その到達点を予測することなどとてもできない。脳のなかに蓄えられた知識と経験が、想像力により脳の中で新しい世界の再生産を行う。実のところ私はこれこそが芸術をいわれるものではないかと考えている。(以下略)」
おそらくこのお考えをもとに、患者様にお題を伝え、絵と文章から、いわゆる絵日記を完成させるよう宿題として出す芸術療法へと昇華させて、施行されていました。この30年以上前からされていた二つの取り組み(鉄剤療法、芸術療法)は、現在アルツハイマー病の研究、臨床に関わる世界中の医療従事者の中で重要と考えられています。特に、最近テレビに取り上げられ話題となったUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のプレデセン博士のReCODEプロトコルの中核を担う考え方であり、今川先生の先見の明に感服いたす所であります。
私生活では、天文学や歴史、文学にも造詣が深く、詩集「脳の比喩」などを出版。またユニークな視点から、自らのカメラで風景を捉えた写真を多数遺しています。生涯を通じて、あらゆる分野で感性を磨き続けてきた粋人でもありました。
詩集「脳の比喩」に収載されている一編の詩「脳の比喩」から一部を抜粋させて頂きます。
限定された空間は宇宙の舞台
数十億光年の彼方に在る物質ドラマ
人間の眼差しがかけて来た情念の歴史が
ここに渦巻いている
螺旋状に進化した脳髄の先端で
アンデルセンの物語
その中心へと辿れば
アウストラロピテクスの頭蓋骨が
眠っている
今川先生には、お元気でまだまだいろいろお教えを頂きたいと思っておりましたのに、こんなにも早くお別れすることになるとは痛恨の極みです。先生のこれまでのお導きに心より感謝し、安らかに永遠の眠りにつかれることをお祈り申し上げます。
医療法人臨研会 今川クリニック
院長 福本 素由己