アルツハイマー病は日本における認知症患者の約6%を占め、認知症の代表的な疾患として取り扱われている。2008年の厚生労働省の調査では高齢認知症患者の55%がアルツハイマー病と報告されている。ちなみに、2位は血管性認知症で30%、残り15%がその他の疾患である。また、某高齢者医療センターの認知症治療病棟における臨床統計(2008年)では、入院患者の58%がアルツハイマー病であった。
1970年代頃までは、日本の認知症の主な疾患は脳血管性認知症であった。しかし、1990年を境にアルツハイマー病が認知症領域で一位になり、以降ずっとトップの座を占めている。それは、公衆衛生活動の充実から脳血管障害の危険因子が減少したこと、生活様式や食生活が欧米化したこと、など色々な要因が挙げられるが、一番の要因はなんといっても高齢化である。アルツハイマー病の最大の危険因子は加齢といわれている。そもそもアルツハイマー病とは1906年にドイツの精神科医アロイス・アルツハイマーが報告した症例に由来する。それは51才で認知症を発病し、4年あまりの経過でなくなった女性症例である。剖検脳を調べると老人班と神経原線維変化とよばれる通常の脳にはない組織が見られた。このことからアルツハイマー病と呼ばれている。
病理所見の特徴は、びまん性の大脳萎縮で、通常1,400gある脳重量が1,000g以下となる。神経病理学的には(顕微鏡で見ると)神経細胞脱落、老人班、神経原線維変化の出現を認める。最近の研究で、老人班として沈着するアミロイドはβ(ベータ)蛋白からなることがわかっており、神経原線維変化はリン酸化されたτ(タウ)蛋白からなることが判明している。当院のMCIスクリーニング検査は、この老人班に関わるアミロイドβ(ベータ)ペプチドを排除する機能を持つ3つのタンパク質を調べることでMCIのリスクを判定するものである。
文献1)島田 裕之:基礎からわかる軽度認知障害 医学書院
文献2)大熊 輝雄:現代臨床精神医学第12版 金原出版株式会社
文献3)一宮 洋介:認知症の臨床 最新治療戦略と症例 メディカルサイエンスインターナショナル