今回は、認知症の代表的疾患であるアルツハイマー病(以下ADと呼ぶ)の早期発見と、何が治療として最適なのかを、私の臨床経験を通して、考えて観ようと思います。私は、兵庫県立尼崎病院の神経科に所属していた頃から含めて、ADに関して約6000症例を経験しております。まず現時点で、患者から学ぶことが非常に大切であることを、ADの患者と家族の方々から教えられました。臨床医学の出発点において、疾患の病態は患者から学べと言われています。
さて、Aでは早期発見について述べ、Bでは現在の医学的観点(治療法)から何が大切なのかを様々な視点から述べて見ます。
A
早期発見について
現在、問題点になっていることが「早期」ということです。この「早期」という言葉には、ADを発症するかどうかの意味が組み込まれている。それは、何人も病気に罹患したくないと思考し、且つ想像するからでしょう。以前にも述べたように、個体は種の保存の役目を果たせば、個体の役割は終えるのです。例えば、カマキリのオスは種を遺した後、メスに殺されるという厳然たる現象が、カマキリの自然経過の観察から理解出来ます。しかしながら、現代人は他の無数にある生物とは異なっています。ヒトは言葉を有していない原人に始まり(200万年前)、四大文明(エジプト・メソポタミア・インダス・黄河)に進化した結果、言葉または言語がそれぞれ文明に適した形で生まれたのである。さらに進化が進み、産業革命を経て、言語は情動且つ情報と伝達の意味を背負うことになった。進化して21世紀に入るやいなや言語はその持つ情動、つまりアナログ言語の衰退と反して情報とデジタル化伝達言語が、今や優位にある。現代では人はホモ・サピエンス・サピエンスと霊長類の分類でそう呼称されることになった。こういう段階まで進化したのである。
その結果、日本は世界の長寿国に達したわけである。この事実の結果、認知症という病気に罹る人が増加傾向にあり、その中でもADが多くを占有している。また、認知症にかかる医療費と人件費は、癌と比べても比較にならないほど負担が大きいことも問題である。
現在の仮説に従えば、ADの診断が確定する時点から遡って15年前に老人斑を生み出す元が大脳に沈着する。その物質とはアミロイド蛋白質の一部(A42と云うペプタイドである。とは言え、ADを発病する15年前に、行動観察から発病の可能性を推察することは、集団検診でもチェック出来ないであろう。例えば、家族歴を調べて三世代前に老衰(現在では認知症と推測される)で亡くなったという事を知っていても、家族及び親族が認知症になる可能性を考える人は少ないであろう。また、15年間の時間経過を通して、環境の変化(大気、水、ミネラル、ビタミン、三大栄養素、会社組織でのストレス、科学技術の進歩)が生じてもおかしくないであろう。こうして考えてみれば、環境が急速に変化しつつある現代社会においてADの早期発見は困難であると思われる。
次回はB最適な治療とは何かを述べてみます。
2012/10/14 日曜日 居眠りの昼
今川正樹