そもそも記憶とはなんだろうか。学校教育を受けたひとならだれも、試験が近づくにつれて自分の記憶力の良し悪しについて考えた体験があるに違いない。とりわけ記憶が苦手なひとは、そのことで悩み、自分は頭が悪い人間だと悩んだことはないだろうか。
実をいえばわたしは、記憶する能力というのは脳に疾患があるひとは除いて、だれにでもかなり高いレベルで備わっているものだと考えている。それは食べたり呼吸する機能にそれほど大きな個人差がないのと同じことである。
しかしひとくちに記憶といっても、さまざまな性質のものがあり、なかにはわれわれの意識にはあらわれない記憶もある。たとえば生活習慣などはその典型のひとつだ。朝起きたら朝食を食べてから歯を磨くが、これも脳がそのひとの一日の生活のパターンを記憶している結果にほかならない。意識しなくても、条件反射のように行動が決定される。
自著「透明な脳」より