顔を識別するときにも、記憶は重要な働きをする。ヨーロッパから日本へやってきた外国人が、日本人はだれも同じような顔をしていると言うのをよく耳にするが、これはどういうことかといえば、ヨーロッパでは東洋人に親しく接する機会が少ないために、東洋人の顔や風貌についての情報が脳のなかに十分インプットされていないからだ。
こんなふうに考えると、実生活と結合している事象は、あまり意識しなくても脳に記憶されていることになる。たとえば、食事する習慣を忘れてしまうようなひとは、認知症など脳に疾病があるひとを除いて、めったにいない。少なくとも日常生活と密接に結び付いている記憶には、ほとんど個人差が認められない。
自著「透明な脳」より