平成最後の年は、認知症患者様に携わっているご家族様、医療関係者にとって明るいニュースがいくつも話題になるという、今後に期待を抱かせる幕開けになりました。まずは、なんといってもこのニュース、一番問い合わせも多かった眩暈のお薬の話題から始めたいと思います。
平成31年1月8日、産経新聞から
忘れてしまった記憶を薬で回復させる実験に成功したと、東京大や北海道大などの研究チームが発表した。記憶を回復させる効果がある薬の発見は世界初という。アルツハイマー病などの認知症の治療に役立つ可能性がある。米科学誌電子版に8日、論文が掲載された。
チームは20代を中心とした健康な男女計38人に100枚程度の写真を見せ、約1週間後に覚えているかを調べる実験を実施。めまいの治療薬として使われている「メリスロン」を飲んだ場合と、飲まなかった場合で正解率を比較した。
その結果、薬を飲むと、忘れていた写真を思い出すケースが増え、正解率は最大で2倍近く上昇することが判明。忘れた写真が多かった人ほど効果があり、見たかどうか判別が難しい写真で正解率がより高まる傾向があることも分かった。
この薬は脳内の情報伝達に関わる「ヒスタミン」という物質の放出を促進する働きがある。この効果で記憶を担う神経細胞が活性化し、忘れた記憶の回復につながったとみている。
記憶が回復する仕組みを詳しく解明し、認知症の研究成果と組み合わせることで、アルツハイマー病などの新たな治療法につながる可能性がある。
チームの池谷裕二東大教授(薬理学)は「記憶回復のメカニズムが分かったので、今後はより効果の高い薬の開発につなげたい。認知症患者らの生活の質を高められる可能性がある」と話している。
翌日から早速いろいろ問い合わせがあり、当クリニックでも論文を取り寄せたり、販売元の製薬会社に話を伺ったり致しました。まずは、この論文に関しまして製薬会社は一切かかわっておらず、人的・金銭的な関連は全くないとのことでした。その上で改めて、メリスロンを認知症治療に臨床の現場で使用できるのかというと、まずは、認知症には適応がなくあくまで眩暈症の適応の薬であることが大前提ですが、中枢性眩暈にも末梢性眩暈にも使用できる非常に副作用が少ない薬である事は確認できました。また、この論文では、メリスロンを通常用量よりも多く使用しているので、この論文と同等の用量では処方はできないことになります。それを踏まえたうえで、現時点で、メリスロンが認知機能改善に効果がある機序としましては、脳もしくは海馬に対する血流増加が一番に考えられます。元々メリスロンは、耳の奥にある内耳という機関に対する血流増加が眩暈にたいする効能の機序と考えられており、内耳以外にも脳血流を増加する可能性も考えられていましたが、それを立証する一つのデータであると考えています。
今後様々な観点から研究が進み、この研究で使用されたメリスロンの用量も保険適応内で使用できるようになるのではと期待しています。
いずれにせよ、この「脳・海馬への血流の増加」は、今後の認知症治療の重大なテーマになると考えており、それは以前から当クリニックで先駆けて取り組んでいたこととも合致します。
この観点から次回にも新年のニュースをお伝えしたいと思います。
文献1)2019年1月8日 産経新聞記事
文献2)大熊 輝雄:現代臨床精神医学第12版 金原出版株式会社