睡眠障害について

今川クリニックの院長ブログ

最近、話題になったネットニュースの中で、私が特に気になったニュースの見出しが、「日本人の約半数が不眠症の疑い」というものでした。

グーグル、ヤフーなどのトップニュースにも取り上げられていたので、もしかしたら目にした方もいらっしゃるかもしれません。元々のニュースは時事通信の記事で一部抜粋すると(一部改変しています)

日本人の約半数に不眠症の疑いがあり、7割の人が睡眠に不満-。とある寝具メーカーが全国の男女を対象とした意識調査でこんな傾向があることが25日、分かった。 同社は7月、全国の18~79歳の男女1万人を対象にインターネット調査を実施。不眠症について、「寝付き」「睡眠の質」「日中の眠気」といった国際的な基準に照らし合わせた結果、「疑いあり」が49.3%に上った。「疑いが少しある」は18.2%、「心配なし」が32.5%だった。「疑いあり」は20代が最多の61.1%となり、30代(58.5%)が続いた。 睡眠の質では、「満足」が31.8%にとどまり、「少し」や「非常に」などを合わせた「不満」が7割近くに上った。「満足」は40代が最低の23.6%で、30代が次に少ない25.2%だった。同社は「働き盛りや子育て世代で満足な睡眠が得られない実態が明らかになった」としている。 睡眠時間が足りているかとの問いでも、「十分」と答えた割合は40代が最低の26.1%となり、30代の28.1%が続いた。 【時事通信社】

という記事でした。高校や専門学校、大学や大学院などで統計を専門的に学ばれた方からするとこの記事の見出しは典型的な誇張されたものだと、感じられるのではないでしょうか。どこが誇張されているかというと、まず、寝具メーカーのアンケートに答えている方は、睡眠に不満を持つ人が多いのではないかと、推定されるからです。統計学の中で、データ解析を注意すべき点の一つのバイアスにあたるのではないかと愚考しています。(ちなみに大元のアンケートをされている寝具メーカーは私も使用経験があり大変すばらしい寝具を開発・販売されていると思っております。)この記事は多少の誇張がありましたが、当クリニックでも睡眠外来をしておりますと、実際に多くの方が不眠、睡眠障害で悩んでおられます。2000年にPsychiatry Researchに掲載された論文によりますと一般人口を対象とした日本の疫学調査によると成人の21.4%は不眠を訴えているとあります。同じ年のJEpidemiolに掲載された論文では、14.9が日中の眠気を自覚し、男性の3.5%、女性の5.4%が過去一か月間に睡眠薬を服用していたと報告されています。睡眠障害は様々な形で罹患者の生活を障害するだけでなく、生活習慣病のリスクファクターとなり、医療費の増大をはじめとする社会的な損失をもたらすことも明らかになっています。適正な治療のためには、正しい病態把握と診断が必要とされますが、これらの睡眠障害の原因となる病態や疾患は多種・多彩であり、一筋縄でいかないことも多いのが実情です。

平成に入り30年で、もうすぐその年号は終わりを告げようとしていますが、この30年の間で、睡眠医学・睡眠医療は目覚ましい発展を遂げつつあります。睡眠が科学の対象となったのは古にさかのぼりますが、1929年のヒトの脳波の記録、1953年のレム睡眠の発見以後飛躍的な発展を遂げています。そして、平成以降になって睡眠障害は、不眠症、過眠症、睡眠時随伴症、睡眠関連呼吸障害、睡眠関連運動障害、概日リズム睡眠障害と六大分類され、この領域に関連する診断名は100近くに達し、病態の多様性とその解明が進んでいることを示しています。

睡眠医学・睡眠医療の発展には、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が大きな影響を与えています。SASは、精神科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、循環器内科、神経内科、小児科、麻酔科、歯科口腔外科など多数の領域にわたる学術的研究を必要とし、その研究に伴い、高血圧症、心疾患、脳血管障害、糖尿病など多数の病態に対して独立した危険因子となることが明らかにされてきています。SASの治療法として開発・導入されたCPAPの効果は、SASが治療しうる病態であることを明らかにし、睡眠医学・睡眠医療の進歩を一層加速させ現在に至っています。次回には、睡眠障害診断について少し述べさせて頂きます。

文献1)古池 保雄ら:基礎からの睡眠医学 名古屋大学出版会
文献2)大熊 輝雄:現代臨床精神医学第12版 金原出版株式会社
文献3)堀 忠雄:応用講座 睡眠改善学 ゆまに書房
文献4)2018年09月25日 05時13分 時事通信の記事

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